研究課題
肥満は世界的に増加傾向にあり、致命的な慢性疾患を引き起こすリスクを上昇させることが知られている。そのため、肥満の抑制は予防医学上極めて重要な課題となっている。近年、腸内細菌が肥満の制御と深く関わっていることが強く示唆されている。我々は、腸内細菌の組成を変化させることにより、高脂肪食負荷後の肥満病態形成が強く抑制されるマウス(肥満抵抗性マウス)を見出した。そこで本研究は、肥満抵抗性マウスを用いた統合オミクス解析により、肥満の抑制に関わる新規の腸内細菌およびその代謝物を探索し、これらの作用メカニズムを解明することを目的としている。我々はこれまでに、肥満表現型(体重増加・耐糖能悪化)と負の相関性を示す腸内細菌(候補細菌)を同定している。そこで本年度は、これまでの研究で同定された、候補細菌による抗肥満効果の検証を行った。無菌マウスに候補細菌を定着させたノトバイオートマウスを作製し、腸内細菌利用糖の存在下または非存在下、高脂肪食を与え、体重増加・耐糖能・脂肪重量・肝臓重量を比較した。その結果、腸内細菌Aを定着させたマウスでは、腸内細菌利用糖存在下で高脂肪食負荷後の体重増加量や脂肪重量、肝臓重量が有意に低下し、耐糖能の改善効果も観察された。一方、腸内細菌Bを定着させたマウスではそのような効果が見られなかった。以上の結果から、腸内細菌Aは腸内細菌利用糖を供給することにより、抗肥満作用を発揮することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
今年度はノトバイオートマウスを用いた実験より、抗肥満作用を持つ腸内細菌由来の候補代謝物の同定までを予定していた。しかし、無菌マウスの繁殖がうまく行かず、当初の予定よりも少し遅れたが、実際に抗肥満作用を持つ腸内細菌Aを同定することができた。そのため、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
本年度は腸内細菌利用糖存在下で抗肥満作用を発揮する腸内細菌を同定できたので、今後は抗肥満腸内細菌定着マウスの腸内代謝物を解析することにより候補代謝産物を同定するともに、候補代謝産物が抗肥満作用を有することを高脂肪食給餌マウスに投与することで実証する。そのために、抗肥満作用を示したノトバイオートマウスの盲腸内容物・血液のメタボローム解析を行うことで、候補代謝物を同定し、候補代謝物を高脂肪食負荷マウスに投与し、体重増加・耐糖能・脂肪重量・肝臓重量を対照マウスと比較していく予定である。
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