研究課題/領域番号 |
20H03491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
一戸 猛志 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (10571820)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インフルエンザ / 経鼻ワクチン / 上気道常在菌 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに腸内細菌叢およびその代謝産物がインフルエンザウイルス感染後の獲得免疫応答の誘導必要なことを明らかにした(Ichinohe et al. PNAS 2011. Moriyama et al. PNAS 2019)。一方、インフルエンザウイルスの感染の場である上気道の常在菌が、インフルエンザウイルスの増殖や、インフルエンザウイルス感染後または経鼻ワクチン接種後に誘導されるウイルス/ワクチン特異的な獲得免疫応答に与える影響については不明である。そこで本研究では、マウスのインフルエンザウイルス感染モデルを用いて、インフルエンザウイルスの増殖やウイルス特異的な免疫応答の誘導における上気道常在菌の役割を明らかにすることを目的とした。インフルエンザウイルス特異的な免疫応答を高める上気道常在菌を探索するため本年度はマウスの上気道常在菌を低下させる飼育条件を検討した。マウスの上気道常在菌数を低下させる飼育条件を検討するため、マウスを飼育用ケージのかぶせフタの上で飼育することによりマウスと床敷き中の糞便が接触しないように工夫した。しかしマウスを飼育用ケージのかぶせフタの上で飼育しただけでは、マウスの上気道常在菌数を有意に低下させることができなかった。そこでマウスに抗生物質を経鼻的に投与したところ、通常の飼育方法でも上気道常在菌を有意に低下させることに成功した。さらに抗生物質を経鼻投与した場合、インフルエンザウイルス感染後に誘導されるウイルス特異的なIgGおよびIgA抗体価が有意に上昇することを見出し、これはマウスの鼻腔内で増殖しているウイルス量では説明できないことが明らかとなった。今後は、抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌を死滅させた場合に死菌から放出されると考えられるさまざまな病原体関連分子パターン(PAMPs)が粘膜免疫のアジュバントとして機能している可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルス特異的な免疫応答を高める上気道常在菌を探索するため本年度はマウスの上気道常在菌を低下させる飼育条件を検討した。マウスの上気道常在菌数を低下させる飼育条件を検討するため、マウスを飼育用ケージのかぶせフタの上で飼育することによりマウスと床敷き中の糞便が接触しないように工夫した。しかしマウスを飼育用ケージのかぶせフタの上で飼育しただけでは、マウスの上気道常在菌数を有意に低下させることができなかった。そこでマウスに抗生物質(アンピシリン、ネオマイシン、メトロニダソール、バンコマイシン)を経鼻的に投与したところ、通常の飼育方法でも上気道常在菌を有意に低下させることに成功した。次に上気道常在菌が低下したマウスではインフルエンザウイルス特異的な免疫応答が低下していることを確認するため、コントロールマウスおよび抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌数を低下させたマウスにインフルエンザウイルスA/PR8株を経鼻的に感染させた。感染4週間後に血清および鼻腔洗浄液を回収し、ウイルス特異的な血液中のIgG抗体および鼻腔洗浄中のIgA抗体価をELISAで測定したところ、予想に反して抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌数を低下させたグループではコントロール群と比較してウイルス特異的なIgGおよびIgA抗体価が有意に高くなることが分かった。抗生物質の経鼻投与により鼻腔でのインフルエンザウイルスの増殖が抑制されていないか確認するため、コントロールマウスおよび抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌数を低下させたマウスにインフルエンザウイルスA/PR8株を経鼻的に感染させ、感染3および5日目の鼻腔洗浄液を回収した。MDCK細胞を用いたプラークアッセイ法によりマウスの鼻腔内で増殖したインフルエンザウイルスの量を測定したが、2群間に有意な差は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の解析からコントロールマウスおよび抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌数を低下させたマウスにインフルエンザウイルスA/PR8株を経鼻的に感染させた場合、抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌数を低下させたグループではコントロール群と比較してインフルエンザウイルス感染後のウイルス特異的なIgGおよびIgA抗体価が有意に高くなることが分かった。このインフルエンザウイルス感染後のウイルス特異的なIgGおよびIgA抗体価の違いはマウスの鼻腔内で増殖するインフルエンザウイルスの量では説明できないことが示唆された。そこで今年度は、上気道常在菌を死滅させた場合にインフルエンザウイルス特異的な血液中のIgG抗体および鼻腔洗浄中のIgA抗体価が高くなる原因について解析することとする。抗生物質を経鼻的に投与して上気道常在菌を死滅させた場合、死菌からさまざまな病原体関連分子パターン(PAMPs)が放出されると考えられ、これらがインフルエンザウイルス感染後に誘導される粘膜免疫のアジュバントとして機能した可能性も考えられる。そこで抗生物質ではなく、細菌の細胞壁を構成する多糖類を加水分解する酵素であるlysozymeが経鼻インフルエンザワクチンのアジュバントとして機能するかどうかを解析する。Lysozymeの粘膜アジュバントとしての機能を検証するため、マウスにインフルエンザHAワクチンとアジュバントとしてpoly(I:C)またはlysozymeを混合したものを3週間隔で2度経鼻接種する。2回目のワクチン接種から2週間後の血清および鼻腔洗浄液を回収する。HAワクチン特異的な血液中のIgG抗体および鼻腔洗浄中のIgA抗体価をELISAで測定し、HAワクチンのみを経鼻接種したグループと比較してlysozymeの添加によりHAワクチン特異的なIgGおよびIgA抗体価が増加するかを確認する。
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