研究課題/領域番号 |
20H03494
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 岳志 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (00422410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / RNP複合体 / 核小体 |
研究実績の概要 |
多くのRNAウイルスは感染細胞の細胞質でゲノムの転写・複製を行うが、インフルエンザウイルスは例外的に感染細胞の核内でゲノムの転写・複製を行う。ゲノムRNAの転写においては、RNP複合体が核内の宿主RNA polymerase IIに結合し、クロマチン領域でウイルスmRNAの合成を行う。一方で、ゲノムRNAの複製やRNP複合体の形成に関しては全く明らかにされていない。そこで本研究では、インフルエンザウイルスのゲノムRNAの転写・複製に必須の複合体であるRNP複合体が形成される核内の場を明らかにすることを目的とした。特に、感染細胞において顕著な形態変化が認められる核小体に着目して研究を進めた。野生型NPを用いて再構成したRNP複合体を高速原子間力顕微鏡で解析したところ、正常な二重らせん構造を持つRNP複合体の形成が確認されたが、核小体に変異を導入した変異体NPから再構成したRNP複合体は正常なRNP複合体が合成されなかった。一方で、変異体NPに核小体移行シグナルを付加することで、正常なRNP複合体が形成されることを確認した。さらに、宿主RNAポリメラーゼI阻害薬をインフルエンザウイルス感染細胞に処理し、核小体の機能阻害によるRNP複合体形成阻害を評価したところ、RNAポリメラーゼI阻害薬が細胞毒性を示さない濃度において、RNP複合体の形成が阻害されることを見出した。すなわち、NPが核小体に移行することがRNP複合体形成に必須のステップであること、また、正常な核小体構造がRNP複合体形成に重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルスのRNP複合体形成においてNPタンパク質が一時的に核小体に移行することが必須であることを見出し、インフルエンザウイルスの増殖環において核小体の重要性を明らかにした。本成果を論文にまとめmBio誌で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに核小体移行シグナルをアラニン置換した「変異体NP」、変異体NPのアミノ末端に核小体移行シグナルを付加した「復帰変異体NP」を発現するプラスミドを作出し、「野生型NP」、「変異体NP」あるいは「復帰変異体NP」をウイルスRNAポリメラーゼ(flag-PB2・PB1・PAタンパク質)とともに培養細胞で発現させ、RNP複合体を再構成を評価した。その結果、「野生型NP」と「復帰変異体NP」を用いた場合のみ正常な二重らせん構造を持つRNP複合体が形成されることを高速原子間力顕微鏡解析により確認した。これらの結果から、NPが核小体に移行することが正常な、すなわち転写・複製能を有する二重らせん状のRNP複合体形成に重要であることを明らかにした。今後は、インフルエンザウイルスの核内複製機構をより詳細に明らかにするため、RNP複合体形成を構造学的に解析する。二重らせん構造を示すRNP複合体形成にはNPとRNAの相互作用やNP-NPの相互作用、さらにはNPとウイルスRNAポリメラーゼの相互作用が必須である。そこで、ウイルス粒子や感染細胞の核内から精製したRNP複合体、あるいは上記の方法で再構成して精製したRNP複合体を用いて構造解析を進める。RNP複合体の構造を高分解能で解析することで、インフルエンザウイルスの核内複製機構の一端を明らかにすることを目指す。
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