研究課題/領域番号 |
20H03495
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 徹 大阪大学, 高等共創研究院, 教授 (80628595)
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研究分担者 |
奥崎 大介 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任准教授(常勤) (00346131)
宮本 洋一 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 創薬デザイン研究センター, サブプロジェクトリーダー (10379084)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日本脳炎ウイルス / デングウイルス / 解糖系 / ATP |
研究実績の概要 |
これまでにフラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)感染細胞はアポトーシス抑制因子のBCLXを阻害することで顕著なアポトーシスが誘導されることを報告している。その機序としては、ウイルス感染細胞における宿主の翻訳活性の低下による抗アポトーシス因子の MCL1の発現低下が原因であることを明らかにした。翻訳活性の低下は、宿主細胞のATPの低下が起因となっていることを明らかにし、JEV感染細胞を用いたメタボローム解析ではJEV感染によりTCAサイクルの中間産物であるSuccinyl-CoAやSuccinate、Fumarateなどが顕著に減少していることをこれまでに明らかとなった。そこで、JEV感染細胞、非感染細胞を用いて遺伝子発現をRNAシーケンスによって検討した結果、これらのATPの減少は特に解糖系の異常が原因である可能性を見出し、解糖系、TCAサイクルの活性を評価した。その結果、解糖系の経路の活性低下が、TCAサイクル、ならびにミトコンドリアでのATP産生の低下につながっていることが示唆された。そこで、解糖系に着目し、ATPの産生に関わる解糖系の主要な酵素を検討した結果、いくつかの解糖系の酵素がフラビウイルスの複製複合体にリクルートされていることを確認した。したがって1本鎖のプラス鎖RNAをゲノムとしてもつウイルスは自身の増殖において細胞質での反応である解糖系を標的としATPを奪うことが示唆された。さらに、JEV, DENV, ZIKVのコア蛋白質の発現によりミトコンドリアの形態異常や脂質代謝異常による脂肪滴の増大が観察された。以上の結果から、フラビウイルスは宿主からATPを奪い取ると同時にさまざまな代謝を変化させ、自身の増殖に優位となる環境を作っていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の狙いでは、フラビウイルス感染によるエネルギー代謝の活性低下は、従来から言われているPKRなどの自然免疫の活性化に起因していると考えたが、自然免疫ではなくウイルスが積極的に細胞内のATPを奪うことによるものであることを示唆する知見を得ることができ、新しいウイルスの機能であると考えられる。さらに、ウイルス蛋白質の中でもコア蛋白質が単独でミトコンドリアの形状変化や脂肪滴の誘導を引き起こすことを見出し、コア蛋白質の新しい機能の1つを見出すこともできたため、エネルギー代謝を起点として、フラビウイルスの新しい宿主細胞内での機能の一端を見つけることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、さらにフラビウイルス感染での解糖系への影響を調べるとともに、すでに見出しているフラビウイルスが感染しても細胞死が誘導されない細胞株との比較解析を行い、ウイルス感染によるATPの低下の鍵となるセンサー分子の探索を行う。センサー分子の同定ができれば、センサー分子を破壊することでウイルス増殖を探知し、エネルギー産生をシャットオフすることで細胞死を誘導する宿主細胞の新しい抗ウイルス活性を明らかにする。また、コア蛋白質による脂質代謝への影響とその意義を検討するため、脂質代謝に関わるさまざまな遺伝子欠損細胞を作製し、脂質代謝とウイルス増殖を評価する。
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