研究課題
ヒトを宿主とするヘルペスウイルスは9種存在が知られているが、いずれもヒトに終生続く潜伏感染を成立させることができる。潜伏したヘルペスウイルスは、ストレスや免疫抑制など伴って再活性化され、病態を繰り返すことが知られている。9種のヒトヘルペスウイルスには、多くの遺伝子が保存され、ゲノム複製や粒子形成といった基本的な増殖機構は、ほぼ同じであるにも関わらず、それぞれの病態や症状が認められる部位はウイルスごとに異なる。これらのヘルペスウイルスの指向性がどのように決定され、それぞれの特徴的な病態を引き起こす原因となっているのかは全くわかっていない。本研究は、このようなヘルペスウイルスが、どのように異なる細胞を“好む”のか、その分子機構を解明することを目指している。本年度は、単純ヘルペスウイルス(HSV)増殖を増強する因子としてPHB1を、さらに粒子形成を担う機構としPE産生系を新たに同定した。本研究により、医学上重要なヘルペスウイルスの病態発現機構の理解と、その治療法開発が促進されると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
上皮における単純ヘルペスウイルス(HSV)増殖を増強する因子PHB1を、発現クローニングを用いて同定した。CRISPR/Cas9 KOシステムを用いてその分子機構を詳細に解析し、PHB1を介したMEK/ERKシグナルの活性化が、細胞質におけるウイルス粒子の輸送と、細胞間のウイルス伝播に貢献することを示した。MEK/ERKシグナルの阻害は、HSVが属するアルファヘルペスウイルス亜科のウイルスだけでなく、ベータウイルス亜科およびガンマヘルペスウイルス亜科のウイルスにおいても細胞間伝播を阻害することが可能であった。すなわち、今回同定した、PHB1およびMEK/ERKを介した細胞間伝播の促進は、HSV特異的な現象ではなく、全ヘルペスウイルスに保存された、極めて重要な機構である可能性が示唆された。さらに、細胞質におけるウイルス粒子形成を担う機構として、脂質の一種であるPEの産生系の重要性を明らかにした。PE産生系の阻害は、マウス脳炎モデルにおける病態発現を抑制できた。すなわち、PE産生系は、新たな抗ヘルペスウイルス剤の標的となりうることを示した。
本年度の研究をさらに発展させ、ヘルペスウイルスの粒子形成を担う分子機構を、CRISPR/Cas9およびウイルスゲノムへの変異導入によって解析する予定である。また、細胞指向性が極端に限定され、T細胞でのみ増殖可能なHHV-6に注目し、HHV-6増殖を促進するT細胞因子の同定および解析を行う。
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