研究課題/領域番号 |
20H03497
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋口 隆生 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (50632098)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜融合 / ウイルス学 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
エンベロープを持つウイルスによる細胞侵入・細胞/組織指向性は、ウイルスが持つ糖蛋白質と細胞表面に存在する受容体との結合およびウイルスエンベロープと細胞膜の膜融合の連鎖反応により厳密に制御されている。通常、ウイルスの細胞/組織指向性は受容体やプロテアーゼ等宿主因子との相互作用に依存し、膜融合という現象自体は単にウイルスエンベロープと細胞膜を融合させる補助的な役割と捉えられていた。しかし、我々を含む複数の研究により、膜融合能変化に伴う異常な細胞/組織指向性の獲得機構が存在することが近年示された。そこで、本研究では、“膜融合”をキーワードに、パラミクソウイルス感染症における異常膜融合機構の全体像を原子・分子・細胞レベルで明らかにすることを目的に研究を行っている。 本年度は、原子レベルの研究として、構造解析のために、パラミクソウイルス膜融合能亢進変異体の蛋白質を発現・精製し、結晶化スクリーニング、および、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析のための条件検討を行った。分子・細胞レベルの研究として、ヒト神経細胞上の膜融合蛋白質と受容体結合蛋白質、マトリックス蛋白質の局在/共局在を免疫染色法によりイメージング解析した。さらに、パラミクソウイルス感染の制御手法の研究として、化合物ライブラリーから選抜した化合物による候補分子の絞り込みと再現性確認のための2次・3次スクリーニング、および、候補化合物による細胞毒性の評価・解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 異常膜融合能を示す融合蛋白質の構造解析: 膜融合能亢進変異体では、熱力学的な性質が異なるため、野生型とは異なる構造変化が起きていることが確実視される。従って、どういった構造変化が膜融合亢進を引き起こすのかを構造解析し、神経病原性の理解につなげる。本年度も昨年度に引き続き、膜融合能亢進変異体の構造解析を行った。主に、X線結晶構造解析および進歩が著しい高分解能cryo電子顕微鏡解析を用いてた構造解析を実施し、高分解能データを得るために条件検討を繰り返し行った。 (2) 超解像顕微鏡を用いたバイオイメージング技術による局在変化解析: 麻疹ウイルスは免疫・上皮系細胞に感染すると巨細胞を形成するが、ヒト神経系への非典型的な感染では巨細胞を形成せずにcell to cellで広がりウイルス粒子形成もほとんど起こらない。すなわち、神経系細胞ではシナプス等への膜融合蛋白質の限局や宿主因子による制御など、特殊な蛋白質局在が推測されるため解析を行った。本年度も昨年度に引き続き、神経細胞上の膜融合蛋白質と受容体結合蛋白質、マトリックス蛋白質の局在/共局在を免疫染色法によりイメージング解析した。 (3) 膜融合能亢進ウイルスに対する感染阻害機構の解析: 膜融合能亢進ウイルスによる神経感染などへの異常な細胞/組織指向性の制御を目的に、化合物ライブラリーを用いて感染阻害分子を探索し、阻害機構を解明する。昨年度に、パラミクソウイルス糖蛋白質の構造情報と東大創薬機構の化合物ライブラリー(約23万化合物)を利用して膜融合阻害候補のin silico選抜(約1000化合物への絞り込み)と初期スクリーニングを行ったので、本年度は2次・3次スクリーニングを実施し、阻害化合物の絞り込みと再現性の確認、細胞毒性の解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は以下の項目について実験を実施し、研究を推進する。 (1) 異常膜融合能を示す融合蛋白質の構造解析:本項目については、来年度も引き続き膜融合能亢進変異体の構造解析を行う。本年度の蛋白質性状解析とスクリーニング結果に基づき、X線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析解析を実施して、膜融合能亢進の構造基盤を解明するための研究を行う。また、受容体結合タンパク質の構造未決定領域の構造解析も行う。 (2) 膜融合能亢進ウイルスに対する感染阻害機構の解析:本項目については、本年度の阻害化合物の絞り込みと再現性の確認、細胞毒性の解析結果に基づき、同定した感染阻害化合物を用いた作用機序の解析を行う。
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