エンベロープを持つウイルスによる細胞侵入・細胞/組織指向性は、ウイルスが持つ糖蛋白質と細胞表面に存在する受容体との結合およびウイルスエンベロープと細胞膜の膜融合の連鎖反応により厳密に制御されている。通常、ウイルスの細胞/組織指向性は受容体やプロテアーゼ等宿主因子との相互作用に依存し、膜融合という現象自体は単にウイルスエンベロープと細胞膜を融合させる補助的な役割と捉えられていた。しかし、我々を含む複数の研究により、膜融合能変化に伴う異常な細胞/組織指向性の獲得機構が存在することが近年示された。そこで、本研究では、“膜融合”をキーワードに、パラミクソウイルス感染症における異常膜融合機構の全体像を原子・分子・細胞レベルで明らかにすることを目的に研究を行っている。 本年度は、昨年度に引き続き、原子レベルの研究として構造解析のために、パラミクソウイルス膜融合能亢進変異体の蛋白質を発現・精製し、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を実施した。また、受容体結合蛋白質の構造未解明部分のX線結晶構造解析を実施した。分子・細胞レベルの研究として、膜融合蛋白質の変異体機能解析、および、受容体結合蛋白質と膜融合蛋白質の機能に影響を及ぼす宿主因子探索を実施した。また、構造情報に基づく変異体ウイルス蛋白質を用いた細胞上での機能解析も行った。さらに、パラミクソウイルス感染の制御手法の研究として、化合物ライブラリーから選抜した化合物に対する作用機序解析を行った。また、構造情報に基づく膜融合阻害剤の改良を実施した。
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