研究課題/領域番号 |
20H03500
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
鈴木 忠樹 国立感染症研究所, 感染病理部, 部長 (30527180)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 四量体IgA抗体 / 抗ウイルス抗体医薬 / 粘膜抗体 / インフルエンザウイルス |
研究実績の概要 |
四量体SIgAはIgGや単量体IgAより機能活性が高いことが明らかになっている。我々はモノクローナルIgGの可変領域配列以外の定常領域をIgAのフレームに置き換えることにより、モノクローナル抗体の抗原認識部位を保持しつつIgAに変換し、それらの抗体を人為的に分泌型化と四量体化させたモノクローナル四量体SIgAを作製する技術を開発した。この技術により作製したインフルエンザウイルスに対する四量体SIgAは、抗体の最大活性を保持しつつ、抗ウイルス活性の標的域が拡大しており、ウイルス抗原変異に対して頑強性が高いことが明らかになった。この四量体SIgAを抗体医薬として作製することができれば、ウイルス変異に耐性の高い抗ウイルス薬の開発が可能と考えられる。しかしながら、この現象は標的エピトープ依存性があることが分かり、四量体SIgAの感染抑制機構の詳細な理解が必要と考えられた。そこで、本研究では、四量体SIgAの抗体医薬への応用を見据え、四量体SIgA分子構造解析による四量体SIgA形成機構の解明を目指すとともに、ウイルスに対するヒトモノクローナル抗体から様々な四量体SIgAを作製し、四量体SIgAの感染抑制機構を解明することを目的としている。そこでインフルエンザウイルスのHAの中で抗原性がウイルス株や亜型間で比較的保存されているストーク領域に結合する抗体クローン、F11抗体のIgG、単量体型IgA、および多量体型IgA状態における抗ウイルス活性の比較を行った。興味深いことに、抗HAストーク抗体では、IgAの多量体化により抗体の抗ウイルス活性は必ずしも増強されず、IgA抗体とHAとの間に存在している2つの結合様式(抗体の定常領域依存的な結合と可変領域依存的な結合)依存的に、IgAの多量体化によりもたらされる抗体の抗ウイルス活性の増強度合いが変化することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルスに対する四量体IgA抗体を作製し、抗ウイルス活性の作用機序を明らかにした。本研究の過程でIgA抗体の糖鎖構造など抗体の物性評価に必要不可欠な知見を得ており、本研究にとって重要な進展があった。四量体IgA抗体形成機構の解明についても分泌片の機能を明らかにし、研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質性状の理解には構造情報は非常に有用である。我々の解析により四量体SIgAは4つの重鎖と4つの軽鎖、1つのJ鎖、1つのSecretory Component (SC)から成ることが明らかになっているが(PLoS Pathog. 2019)、それぞれのユニットがどのように結合し四量体を形成しているのかについては分かっていない。これまでに、四量体SIgAの構造を解析するため、分子構造の可動性の高いFabに相当する部分を欠損した変異体から成る四量体SIgA(IgAΔ)を作製しX線結晶構造解析を試みているが、IgAΔの作製には成功しているもののX線結晶構造解析に適した結晶ができないことが明らかになった。一方、IgAと同じように多量体構造を呈するIgMは、これまで正五角形をしていると信じられていたが、実際には大きなギャップを持つ非対称で歪な五角形をしていることが、最近の電子顕微鏡解析により明らかにされており(Sci Adv. 2018)、五量体IgMと同程度の大きさを有する四量体SIgAも同様の手法で原子レベルの構造情報が得られることが期待できる。今後、クライオ電子顕微鏡解析用サンプルの合成とネガティブ染色検体の通常型電子顕微鏡による1次品質チェックを行い、クライオ電子顕微鏡解析に十分な品質のサンプル作製を行い、四量体SIgAの構造解析データ取得を行う。
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