研究課題
自然リンパ球、NK細胞、NKT細胞などの自然免疫系リンパ球は、感染免疫応答、抗腫瘍免疫、炎症免疫疾患などにおいて重要な働きをしている。自然免疫系リンパ球の分化・維持・機能にはIL-15が必須であるが、どの細胞が作るIL-15に依存するのかという問題は未解決である。本研究は、独自に作製した細胞特異的IL-15欠損マウスを用いて、NK細胞とNKT細胞の分化・維持・機能を支える骨髄と胸腺のIL-15産生性免疫微小環境を同定し、その感染防御・抗腫瘍免疫・慢性炎症における機能を明らかにする。そのために、A.自然免疫系リンパ球を支える骨髄IL-15産生性微小環境の同定と病態における役割、B.胸腺IL-15産生性微小環境に依存する新規iNKT細胞の機能と病態における役割、の2つの研究項目について研究を推進した。骨髄で分化するNK細胞については、NK細胞のレポーターマウス(Ncr1-Cre R26R-tdTomato)を用いて、第1世代Cubic法にて透明化を施した後で免疫染色をおこない、広域で深部にわたる骨髄NK細胞のイメージングに成功し、骨髄内で散在性のNK細胞とクラスターを形成するNK細胞の2種類の集団が存在することを明らかにした。今後は、ケモカインの関与などNK細胞クラスターを形成する機構の解明をおこなう。胸腺で分化するiNKT細胞については、胸腺IL-15欠損マウスにメラノーマ細胞を移入し肺転移巣を解析した結果、転移巣が増加していたことから、新規CD244陽性iNKT細胞が分泌するIFN-gがNK細胞を活性化して、腫瘍細胞の排除に重要な働きをすることを明らかにした。今後は、脂肪組織におけるCD244陽性iNKT細胞の機能を解析するとともに、このCD244陽性iNKT細胞のヒトにおける相同集団を解析し、新規CD244陽性iNKT細胞の免疫系における機能を統一的に理解する。
2: おおむね順調に進展している
研究項目A. 自然免疫系リンパ球を支える骨髄IL-15産生細胞の同定:NK細胞のレポーターマウス(Ncr1-Cre R26R-tdTomato)を用いて、第1世代Cubic法にて透明化を施した後で免疫染色をおこない、広域で深部にわたる骨髄NK細胞のイメージングに成功し、骨髄内で散在性のNK細胞とクラスターを形成するNK細胞の2種類の集団が存在することを明らかにした。また、NK細胞の発生に重要なIL-15を供給する血液細胞を同定するために、骨髄から単球・好中球・B細胞を単離しNK細胞と共培養してその生存を解析した。その結果、NK細胞は単球と共培養した場合に強く生存が促進されたが、IL-15欠損単球と共培養するとその効果が失われた。従って、単球が産生するIL-15がNK細胞の発生に重要な働きをしていることが示唆された。研究項目B. 新規iNKT細胞の肺における抗腫瘍免疫における役割:予備的結果から、CD244陽性iNKT細胞が肺に多いこと、IFN-gを強く発現することがわかっている。B16F10メラノーマの肺転移(播種)モデルにおいて、iNKT細胞が分泌するIFN-gがNK細胞を活性化して、腫瘍細胞の排除に重要な働きをする。そこで、肺のCD244陽性iNKT細胞が減少する胸腺IL-15欠損マウスにメラノーマ細胞を移入し、肺転移巣の数を解析した。その結果、胸腺IL-15欠損マウスにおいては転移巣が増加していた。以上の実験から、新規CD244陽性iNKT細胞が分泌するIFN-gがNK細胞を活性化して、腫瘍細胞の排除に重要な働きをすることを明らかにした。
研究項目A:すでにNK細胞のレポーターマウスを用いて、第1世代Cubic法にて透明化を施した後で免疫染色をおこない、広域で深部にわたる骨髄NK細胞の局在情報を処理する実験系を確立した。独自に取得したNK細胞の遺伝子発現プロファイルから、NK細胞の局在に関与する分子としてケモカイン受容体CXCR3、CXCR4、CCR1を候補として絞りこんでいる。そこで、ケモカインの阻害剤や阻害抗体を投与したマウスにおいて、NK細胞クラスターに変化が見られるか定量的に解析する。研究項目B:予備的結果から、CD244陽性iNKT細胞が脂肪組織に多いこと、IFN-gを強く発現することがわかっている。iNKT細胞が分泌するIFN-gにより慢性炎症が誘導され、脂肪蓄積が亢進する可能性が考えられる。そこで、脂肪組織のCD244陽性iNKT細胞が減少する胸腺IL-15欠損マウスに高脂肪食を与え、体重の増加を指標として肥満の進行を解析する。また、脂肪組織を組織染色し脂肪の拡大や炎症性細胞の浸潤を、糖負荷テストをおこない耐糖能を解析する。以上の実験から、CD244陽性iNKT細胞が肥満発症を促進させるかを検証する。ヒト末梢血中のiNKT細胞の一部もCD244を発現している。ヒトのCD244陰性iNKT細胞とCD244陽性iNKT細胞の性状の違いを明らかにするため、それぞれの集団における分化・機能に重要な因子の発現をフローサイトメトリーにて解析する。特に、マウスCD244陽性iNKT細胞が高発現しているIFN-g、グランザイム、インテグリンに注目して評価する。さらに、ヒト末梢血からCD244陰性とCD244陽性 iNKT細胞を採取し、digital RNA-seqを行う。得られたデータセットを用いてPCA解析、GSEA解析、Pathway解析などにより遺伝子発現を網羅的に解析する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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