研究課題/領域番号 |
20H03502
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 宏樹 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任講師(常勤) (50747920)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | mRNA安定性 / RNA分解酵素 / 細胞分化 / 炎症応答 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画のうち、以下の計画について実験の実施および結果の評価を行った。 特定の細胞集団におけるRegnase-1の蛋白質分解メカニズムの解明については、顆粒球においてRegnase-1蛋白質が分解されることを見出したが、これらの蛋白質切断は、細胞を界面活性剤によって溶解した際に、分泌顆粒に含まれる大量のプロテアーゼが細胞質のRegnase-1を分解することによって生じたアーティファクトであることが判明した。 Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスの自己免疫疾患モデルマウスに対する影響の解明について、Regnase-1のΔCTD変異と自己免疫疾患モデルマウスC57BL/6 lprとの交配を行い、それらの交配マウスがリンパ節の肥大やIg産生量を増大させ、自己免疫症状を亢進させることが判明した。Regnase-1のΔCTD変異がlprマウスに与える影響を解明するために、このマウスのリンパ節組織に対してシングルセル解析を行ったところ、特定の免疫細胞集団が強く活性化することが判明した。現在この免疫細胞活性化のメカニズムを詳細に解析し、リンパ節肥大等の免疫応答の増強との関連を調べている。また全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルマウスであるMRL/Lpr系統に対して、ゲノム編集技術によってRegnase-1のΔCTD変異を導入した変異マウスの作製を行った。こちらのマウスにおいても全身性の免疫症状や腎臓機能に対する変異の効果を検証している。 Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスのアレルギー疾患モデルマウスに対する影響の解析については、Balb/cバックグラウンドのリン酸化阻害変異マウスを作製し(AA変異、ΔCTD変異)、それらの疾患に対する影響を評価した。その結果、両変異マウスはアレルギー疾患症状を軽減する効果があることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスの自己免疫疾患モデルマウスに対する影響の解明について、疾患の進展の原因となる免疫細胞とその応答に関するメカニズムの解明が進んできており、こちらのテーマは研究計画通りに進行していると考えられる。また、SLEのモデルマウスにRegnase-1リン酸化阻害変異を導入することで、SLEのような難治性の自己免疫疾患症状の進展とmRNA安定性との機能的関係性に関する知見を得ることができ、これらの疾患との関わりを詳細に解明することが期待できる。 Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスのアレルギー疾患モデルマウスに対する影響の解析については、アレルギー疾患モデルマウスに使用する、Balb/c系統のRegnase-1のリン酸化阻害変異マウスの取得が完了したこと、それらの系統を用いてアレルギー疾患モデルを適用して、疾患症状の評価が完了したことなどを考慮すると、当初の研究目的の年度計画に則して順調に進行しているのではないかと考えられる。 特定の細胞集団におけるRegnase-1の蛋白質分解メカニズムの解明については、期待されていた結果とは異なる結果であったが、前に挙げた2つの研究計画が順調、あるいはそれ以上に進行していることを鑑みると、全体的にはおおむね研究計画に沿って各実験を遂行できているのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスの自己免疫疾患モデルマウスに対する影響の解明について、前年度までに同定したRegnase-1のリン酸化阻害変異に伴う特定の免疫細胞集団の活性化の分子メカニズムを解明する。具体的には、Regnase-1のリン酸化をもたらす外部シグナルの同定と、特定の免疫細胞集団の活性化をもたらす受容体シグナル経路の解明を目指す。また、前年度までに作製した、Regnase-1のリン酸化阻害変異を導入したSLEのモデルマウスについても疾患症状の評価および解析を進め、SLEの疾患症状に対するRegnase-1のリン酸化阻害変異の影響と、その影響に関する分子メカニズムの解明を目指す。 Regnase-1のリン酸化阻害変異マウスのアレルギー疾患モデルマウスに対する影響の解析については、Balb/cバックグラウンドのRegnase-1阻害変異マウスにおけるアレルギー疾患モデルマウスの症状の抑制の原因を解明し、アレルギー性免疫応答とRegnase-1のリン酸化との関連を詳しく解明する。 また計画の最終年度である本年度は、これらの研究成果を国内学会等で発表し、成果の外部への発信を図る。また、研究成果の学術論文への掲載を進めることで、本課題で得られた研究成果の公知および社会への還元を目指す。
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