研究課題/領域番号 |
20H03505
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
改正 恒康 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 教授 (60224325)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 樹状細胞 / I型インターフェロン / シグナル伝達 / DNAセンサー |
研究実績の概要 |
タンパク質複合体coat protein complex I (COPI)を構成するサブユニットタンパク質Coatomer subunit α (COPA)のアミノ酸置換をきたすヘテロ変異により、COPA症候群と呼ばれる自己炎症性疾患が生じる。COPIは、ゴルジ体から小胞体へのタンパク質輸送を担うが、COPA変異がどのような機構で病態を引き起こすのかに関してはほとんどわかっていない。今年度は、COPA症候群患者で同定された新規のアミノ酸置換変異(X変異とする)を導入したマウスを樹立し、樹状細胞の解析を進めた。GM-CSF存在下で骨髄細胞から誘導される樹状細胞(GM-CSF DC)は、細胞質内DNAセンサーSTINGの刺激によりI型インターフェロン(IFN)を産生する。Copa Xヘテロ変異マウス由来のGM-CSF DCは、STING刺激によるI型IFN産生が亢進していた。STINGは刺激を受けた後、リン酸化され、小胞体からゴルジ体へ移動し、さらに下流のキナーゼTBK1のリン酸化を誘導し、転写因子IRF3の活性化を介して、I型IFN産生を誘導する。Copa Xヘテロ変異マウス由来のGM-CSF DCにおいて、これらの指標、すなわちSTINGのリン酸化、ゴルジ体への局在、TBK1のリン酸化はいずれもSTING刺激後顕著に亢進されていた。また、Copa Xヘテロ変異マウスの脾臓において、I型インターフェロン(IFN)によって誘導される遺伝子群(ISG)の発現が亢進していたが、その亢進はSTINGシグナル阻害剤によりキャンセルされた。これらの結果から、COPIはSTINGの小胞体へ輸送することによりSTINGシグナルを制御していること、そして、COPA X変異によりSTINGの過剰な活性化、I型IFN産生の亢進が生じることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己炎症性疾患の新たなモデルマウスを樹立し、そのマウスの解析により、樹状細胞において細胞質内センサーSTINGシグナルの過剰な活性化というユニークな表現型を見出すことができた。モデルマウスには、間質性肺炎、T細胞の異常な活性化なども生じていたが、それらの異常がSTINGシグナルの異常で説明できるのかどうか、他にも異常があるのか明らかにすることは非常に意義深いと考えられる。また、Copa X変異マウス以外にも自己炎症性疾患モデルマウスを樹立しており、そのマウスの解析でもユニークな所見が得られつつある。抗原提示細胞機能を制御する分子機構について、新たな展開が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今回樹立した自己炎症性疾患モデルマウスにおける抗原提示細胞の機能異常の解析を進める。STINGシグナル異常の病理的意義の詳細な解析に加えて、様々な樹状細胞サブセット、マクロファージにおいて、Toll様受容体、RIG-I様受容体など様々なセンサー機能の解析を進める。STINGシグナル異常によるI型IFN産生誘導の病理的意義については、I型IFNの受容体を欠損するマウスとの交配を進め、I型IFNシグナルを遮断した状態で表現型がどのように変化するか解析する。また、タンパク質輸送によりT細胞に対する抗原提示、分化誘導能が様々な段階で制御されていることが予想されるので、この面からの解析も進める。さらに、新規の遺伝子改変マウスの樹立、解析も進めている。得られたマウスについて、国内、国外との共同研究も積極的に進める。
|