IgAは腸管内腔に分泌され、腸内細菌との相互作用によって腸管の恒常性を維持する重要な役割を担っている。我々が過去に行った研究によって、IgAが腸内細菌に及ぼす作用はIgAの糖鎖に影響を受けることが明らかとなっている。本研究では、IgAの糖鎖修飾がどのように調節されるのかを理解する目的で、様々な種類のIgAを抽出し、糖鎖修飾について比較検討した。大腸内容物から抽出したIgAはその他のIgA(小腸内容物中のIgA、あるいは形質細胞から培養液中に分泌されたIgA)とは大きく異なったプロファイルを示す事が明らかとなった。この結果は、大腸内腔における腸内細菌がIgAの糖鎖修飾に大きく関わっていることを示唆している。実際、SPFマウスに抗生剤を経口投与して腸内細菌を変動させたところ、糞便IgAの糖鎖修飾は大きく変動した。また、無菌マウスに特定の腸内細菌(B.theta)をモノコロナイズさせたところ糞便IgAの糖鎖は大きく変動し、かつ抗生物質を経口投与した場合とは異なるIgA糖鎖のプロファイルを示した。従って、腸内細菌の種類によってIgA糖鎖に与える影響(糖鎖の生成あるいは分解)は異なる事が示唆された。そこで、無菌マウスに4種類の異なる細菌種を連続的に定着させる実験を行った。この結果、それぞれの細菌種においてIgA糖鎖に及ぼす影響は異なる事が観察された。さらに生理的な条件におけるIgA糖鎖がどの様な影響を受けるのかを明らかにするために、無菌マウスにSPFマウスの糞便細菌を経口移植する実験を行った。IgA糖鎖と腸内細菌の関連について機械学習を用いた数理解析を行ったところ、細菌種によってIgA糖鎖の生成あるいは分解に関与するものの両者が存在する事が明らかとなった。以上の研究により、IgAの糖鎖は腸内細菌との複雑な相互作用によって調節されている事が明らかとなった。
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