研究実績の概要 |
免疫システムは多種多様な病原微生物に反応する一方、自己の成分には反応しない特性を備えている。自己成分に対する不反応のメカニズムは自己免疫寛容とよばれ、その破綻は様々な自己免疫疾患を引き起こすため、以前より良く研究されてきた。本研究課題では胸腺上皮細胞において発現が特異的に低下するRNA結合タンパク質Zfp36l1(zinc finger protein 36, C3H type-like 1)および Zfp36l2に注目し、遺伝子改変マウスを用いつつその生理的意義とメカニズムの解析を行ってきた。 今年度の研究ではこれらマウスの胸腺上皮細胞、および胸腺内樹状細胞(dendritic cell; DC) のサブポピュレーションの変化に着目し、1細胞遺伝子発現解析法(scRNA-seq)を含む詳細な解析を行った。遺伝子改変マウスの胸腺では特定の胸腺上皮細胞サブポピュレーションがほぼ消失していることが明らかになり、これらサブポピュレーションの重要性が示唆された。また、樹状細胞においても有意な変化が認められ、cDC1の特に分化したサブポピュレーションが最も顕著に減少していた。また、T細胞との共培養の結果、これらcDC1は制御性T細胞(Treg細胞)の誘導能が低下していることが明らかになった。 最近の研究により、胸腺上皮細胞は従来考えられているよりも多くのサブポピュレーションにより構成されることが明らかになってきているが、それらが形成されるメカニズムについては明らかになっていない。本研究はこれらサブポピュレーションが形成されるメカニズムの一端を明らかにするとともに、胸腺上皮細胞が胸腺内微小環境の構築に重要であることを示すものであった。これらの知見は、今後、自己免疫疾患の病態やメカニズムを理解する上で役立つと考えられる。
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