研究課題
RB1がん抑制遺伝子産物は、発がん時よりもむしろ悪性進展時において頻繁に不活性化し、そのことは、G1期からS期への促進のみでなく、転移、細胞運命変換や上皮間葉転換、未分化性取得、治療耐性発現等の誘導に寄与する事が知られていた。我々は、このようなコンテクストにおけるRB1機能の分子基盤を探索すべく網羅的な遺伝子発現・代謝析を行い、コレステロール代謝のマスターレギュレーターであるSREBP転写因子群や解糖系尾酵素であるPGAM1,2がRB1の新規標的である事等を見出した。これらの発見をヒントに、RB1が、細胞周期の調節や組織特異的転写因子との強調に加え、代謝を巧妙に節する事によって、細胞の未分化な挙動を制御するというアイデアを得た。本計画では、RB1が代謝を制御するメカニズムとその生理的・臨床的意義を詳細に解析することによって、がん治療の標的としてのがん代謝の本態に肉薄することをめざした。またRB1の新規標的として見出したELOVL6のHER2陰性乳がんにおける機能抑制が著しい治療効果を示す事を発見、この機構を解明するとともに、将来開発されるであろうELOVL6阻害剤に対する内在的・獲得耐性を予想、これを克服するための戦略の探索を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本計画では、RB1が代謝を制御するメカニズムとその生理的意義を詳細に解析することによって、がん治療の標的としてのがん代謝の本態に肉薄することをめざした。令和3年度は、RB1がコレステロール代謝を介して組織分化を阻害する事、PGAM1,2がRB1のエピジェネティックな機能を媒介すること、RB1の新規標的のひとつELOVL6がセラミド代謝の制御を行うことなど見出した。ELOVL6阻害剤開発のためのPOCを数多く獲得した。さらに、RB1を無リン酸化状態に誘導するCDK4/6阻害剤の非乳がん腫瘍への適応拡大を目指し、この薬剤を増刊する化合物をスクリーニングし多くのキナーザ阻害剤を見出した(特許出願準備中)。この結果を臨床試験につなげるべく臨床科や製薬との連携を模索している。どの計画も臨床的な応用を見通すことのできるフェーズに達しており、当初計画以上に進展した。基盤Aへの移行を計画している。
RB1-PGAM基軸がどのように細胞の未分化な挙動を決定するのかを問うため、RB1, PGAMそれぞれノックアウトした細胞、RB1をノックアウトしてPGAMを強制発現した細胞のヒストンアセチル化等のepigenetic制御の様態を解析する。つまりPGAM発現異常により糖代謝を経たepigeneticな変化が起こるかを問う。乳がんがん治療標的としてのELOVL6のproof of concept 取得を目指す。ELOVL6阻害がC16脂肪酸の蓄積によってセラミド生成を誘導、これが細胞死を誘導する事、セラミド異化に関わる酵素の同時阻害が、ELOVL6阻害による殺細胞効果を亢進すること、AKT活性の上昇がELOVL6阻害による治療に抵抗することなどを見出している。RB1による広汎なコレステロール合成経路の制御の意味を明らかにすべく、ミトコンドリアに分布するコレステロールの挙動の変化を解析する。正常乳腺細胞におけるRB1とAMPKの関係の探索は、RB1によるMycの正の制御という意外な知見をもたらした。この経路ががん制御においてもつ意味は非常に大きいと思われ、引き続き探索する。肝細胞がんおよびKRAS変異がん肺がん、大腸がん、膵臓がん)にたいしてCDK4/6阻害剤を適応拡大する挑戦を続けている。CDK4/6阻害に対する抵抗性発現機序の探索のため、核酸濃度解析、メタボローム解析、RNA-seqや種々のCDKの活性の測定を行う。CDK1/2/5/9阻害剤およびCDK2/4/6阻害剤というマルチCDK阻害剤の生物学的効果と内在性耐性機構の解明も進める。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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