研究課題/領域番号 |
20H03510
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平田 英周 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (40761937)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん脳転移 / 脳微小環境 / アストロサイト / ミクログリア |
研究実績の概要 |
(1)マウスモデルを用いた脳転移関連アストロサイトの分類:まず脳転移指向性を高めたヒト肺がん細胞株PC9-BrM4をヌードマウスの心腔内に接種して脳転移を誘導し、この脳組織から効率よくアストロサイトを抽出するプロトコルを確立した。この手法を用いてコントロールマウスおよびPC9-BrM4脳転移(30日目)を有するマウス脳組織からそれぞれアストロサイトを単離し、total RNAを抽出してcDNAライブラリを作成したのち次世代シーケンサーによるシーケンスと遺伝子発現解析を行った。これによりがん脳転移関連アストロサイトの遺伝子発現パターンを描出した。 (2)MGS共培養法によるがん促進性・抑制性シグナルの同定:がん細胞とグリア細胞の相互作用を長期間に渡って安定的に解析することのできる新規培養法(Mixed-glial culture on soft substrate:MGS法)を確立した。この手法を用いた解析により、脳組織におけるがん細胞の生存・増殖はグリアネットワークの修飾を介していること、脳微小環境中には極めて強い細胞障害性を有するミクログリアが存在しており、この細胞障害性ミクログリアの制御が脳組織におけるがん細胞生存のカギを握っていることを示唆するデータを得た。 (3)がん促進性・抑制性グリアネットワークの同定:がん脳転移マウスモデルおよびMGS共培養系を用いた解析(薬剤スクリーニングおよびsiRNAを用いた評価)により、がん促進性・抑制性微小環境を規定すると考えられる複数の分子・シグナル伝達経路を同定することに成功した。これら同定された分子は全てグリア細胞のネットワーク制御に深く関わっていることが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスモデルを用いた1細胞遺伝子発現解析に関して研究が遅れているが、in vitro共培養系の活用により、がん促進性・抑制性に関わる細胞・分子・シグナル伝達経路を当初の予定よりも早く同定することができた。この研究成果は我々が独自に開発したグリア培養法によって得られたものであり、現在、その有用性を示す論文を投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)がん脳転移微小環境の空間的トランスクリプトームを1細胞レベルで明らかにする:がん脳転移微小環境の修飾を時空間的に明らかにすることを目的として、10xVisiumによる時空間的遺伝子発現解析を行う。マウスモデルはがん細胞の接種から6日目と27日目のマウス脳組織を用意し、脳転移微小環境を構成する細胞・分子・シグナル経路をステージごとに網羅的に描出する。またこれらの結果をマウスモデル脳組織の経時的な免疫学的染色法によって確認し、がん脳転移を制御しうると考えられる標的候補分子を絞り込む。 (2)MGS共培養系を用いてがん脳転移微小環境の分子基盤を検証する:引き続きMGS共培養系を用いた実験を継続し、これまでの研究で得られたがん抑制性・促進性分子基盤の検証を行う。また新たな薬剤ライブラリを用いたスクリーニングに加え、ライブイメージングとin vitro遺伝子発現解析を併用することで、がん細胞とグリア細胞における多細胞間ネットワークの修飾ががん細胞の挙動にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。さらに1細胞遺伝子発現解析により、MGS培養系中にわずかに含まれるがん細胞傷害性ミクログリアとこれを制御するアストロサイトの特徴を抽出する。 (3)グリアネットワークにおける標的分子を同定する:これらの研究結果からがん脳転移の治療標的となり得る微小環境因子・分子を同定し、がん脳転移マウスモデルを用いてその効果を検証する。
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