研究課題/領域番号 |
20H03510
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平田 英周 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (40761937)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | がん脳転移 / 脳微小環境 / アストロサイト / ミクログリア |
研究実績の概要 |
研究室において独自に開発した新規グリア共培養系(Mixed-glial culture on/in soft substrate:MGS共培養系)を用いた薬剤スクリーニングにより、がん脳転移に特異的な治療標的候補分子としてmetabotropic glutamate receptor 1 (mGluR1)を同定した。mGluR1はグループI代謝型グルタミン酸受容体に属するGタンパク質共役受容体であり、中枢神経系においてL-グルタミン酸の受容体としてシナプス伝達に関与している。mGluR1の発現はほぼ中枢神経系に限られており、各種がん細胞株においてもmGluR1の発現はほとんど認められていない。ところが、がん細胞単独培養下では全く効果のないmGluR1阻害剤が、MGS共培養下においてはがん細胞の増殖を強く抑制することが明らかとなった。この分子機構として、アストロサイトとの相互作用によってがん細胞にmGluR1の発現が誘導されること、mGluR1の発現が誘導されたがん細胞では、細胞の生存・増殖に関してmGluR1下流シグナルへの依存性が増強していることを示唆するデータを得た。またMGS共培養系を用いたライブイメージングにより、脳微小環境中にはがん細胞を特異的に攻撃するミクログリアが存在していることが明らかとなった。このミクログリアはがん細胞にcaspase-1依存性の細胞死を誘導すること、脳転移指向性を強めたがん細胞や原発性悪性脳腫瘍である膠芽腫細胞では、アストロサイトを介してこのミクログリアによる細胞死誘導を回避するシステムが成立していることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
独自のin vitro共培養系を用いた薬剤スクリーニングにより、がん脳転移に対する有力な治療標的候補の同定に成功している。また脳転移がん細胞の排除に重要な役割を担うと考えられる腫瘍細胞傷害性ミクログリアを同定することに成功しており、これを標的とする治療戦略の開発に向けて今後更なる研究成果が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) mGluR1を標的としたがん脳転移治療法の開発 がん脳転移特異的に観察されるmGluR1の発現誘導と依存性増強の分子機構を明らかにし、これを標的とした治療法の開発を目指す。研究アプローチとして申請者らが独自に開発したMGS共培養法とがん脳転移マウスモデルを用いた解析を連動させ、新規医療シーズとしての代謝型グルタミン酸受容体標的療法を提案する (2) グリアがん免疫ネットワークの全貌解明 ミクログリアによるがん細胞の傷害に関して、その分子機構の詳細を明らかにする。またがん細胞を排除する局所自然免疫としてのグリアがん免疫ネットワークに着目し、制御性アストロサイトと腫瘍細胞傷害性ミクログリアの間に存在すると予想される新規チェックポイント分子機構を含め、その制御機構の全貌解明に挑戦する。
|