本年度は、昨年度までに実施した3つのドキシサイキリン誘導性ATRXノックアウト細胞株におけるゲノムワイドCRISPR loss-of-functionスクリーニングの解析を進めた。CRISPRスクリーニングはコントロール、ATRXノックアウト、アルキル化剤テモゾロミド(TMZ)投与、ATRXノックアウト+アルキル化剤テモゾロミド(TMZ)投与の4条件にて行なった。その結果、コントロール(ATRX野生型)と比較してATRXノックアウト細胞に特徴的な合成致死性遺伝子はほぼ存在しないことがわかった一方で、TMZ投与下における細胞の脆弱性はATRXに規定される場合があることが明らかとなった。具体的には、ATRX野生型グリオーマ細胞株はDNA修復関連遺伝子の欠損によってTMZ感受性が増大するが、ATRX欠損型グリオーマ細胞株はクロマチン立体構造制御因子等の異なる遺伝子群の欠損によってTMZ感受性が増大することがわかった。このことは、ATRX野生型と変異型のグリオーマ患者はTMZに対して異なる脆弱性を有している可能性を示唆しており、TMZの感受性を高めるコンビネーション療法を開発する上で重要な知見である。今後これらのTMZ合成致死性候補因子群の個別ノックアウト株を樹立して各々の機能解析を進め、新規合成致死性療法の開発に向けた研究を推進していく予定である。また、これらの表現型を規定する分子メカニズムの解明に向け、現在ATRXノックアウト下におけるChIP-seq解析及びRNA-seq解析を進めている。上記の脆弱性はATRX欠損によるクロマチンリモデリングの変化に起因する可能性が考えられるため、今後さらに詳細な分子的解析を進めることでATRXによるグリオーマの分子制御機構を解明していきたい。
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