研究実績の概要 |
研究代表者はヒトT細胞白血病ウイルス1型 (HTLV-1)による成人T細胞白血病 (ATL) 発がん機序を解析する中で、HTLV-1プロウイルスのマイナス鎖にコードされるHTLV-1 bZIP factor (HBZ) の転写産物がタンパク質をコードするmRNAであるだけでなく、機能的RNAとしてヒト遺伝子の転写制御に関与していることを見出し、coding機能とnon-coding機能を併せ持つRNA、いわゆるbifunctional RNAという新しいカテゴリーに属する遺伝子としてその分子機構及び発がんにおける役割について研究を推進した。トランスクリプトーム解析により、HBZ遺伝子のRNAとタンパク質はそれぞれに異なった機序でヒトTP73遺伝子を発現誘導することが明らかとなった。さらにこのTP73遺伝子のスプライシング アイソフォームの一つであるTAp73は、①細胞の乳酸トランスポーターであるMCT1・MCT4を介した乳酸排泄の促進、②エピゲノム制御に重要な役割を果たすEZH2遺伝子の発現亢進を惹起し、がん細胞において重要な「がん代謝」及び「エピゲノム異常」を促進することが判明した。さらにXenograft modelによるin vivo実験で乳酸排泄阻害剤(syrosingopine:MCT1・MCT4阻害剤)がATL細胞の増殖抑制作用を有することを発見した。これらの結果を、国際誌Blood Cancer Discovery誌に原著論文として報告した(Toyoda K, Yasunaga JI, et al. Blood Cancer Discov, 2023 Sep 1;4(5):374-393. doi: 10.1158/2643-3230.BCD-22-0139.)。これまで「がん代謝」を標的としたATLの治療薬は無く、今後の新薬開発における有望な治療標的として期待される。
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