研究課題/領域番号 |
20H03515
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん |
研究実績の概要 |
本研究では、がんの悪性化プロセスにおける細胞の酸性環境適応やlysosomal exocytosisの重要性を追究している。前年度の研究成果としてPRL高発現による酸性環境での選択的増殖に積極的なプロトン排出が関わっていることが示されていたので、それに関わるプロトントランスポーターに着目して解析を進めた。リソソーム内腔は強く酸性化していることが知られており、ATP 依存性にプロトンを輸送するV-ATPaseが機能している。この分子動態を調べるために、V-ATPaseを構成するいくつかのサブユニットをmCherryと連結した分子を安定発現する細胞を作成した。中でもV0CサブユニットのmCherry融合分子は細胞質でドット状の局在パターンを示し、リソソームに集積する蛍光化合物のLysoTrackerと共局在しており、本来のV-ATPaseの局在を反映していると考えられた。また、PRL高発現によって起こるlysosomal exocytosisはプロトンだけでなくリソソーム内腔に蓄えた加水分解酵素も分泌すると考えられるので、特にがん浸潤との関連が知られるプロテアーゼであるカテプシンの培地中での量変化を調べた。その結果、PRL高発現に伴ってカテプシンが分泌されていることが確認できた。このカテプシン分泌によって細胞外マトリックス分解を促して、がん細胞の浸潤運動を誘発している可能性が考えられた。一方、線虫での解析から関連が示されてきたTRPMLを哺乳動物細胞でノックアウトした細胞でlysosomal exocytosisが阻害されていることを確認し、さらにその機能調節の仕組みの解析にも取り組んだ。これまでの研究から、TRPMLの機能調節にはイノシトールリン脂質のPI(3,5)P2や活性酸素種が重要であることが知られているので、関連するリン脂質の量解析や活性酸素産生についての解析も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、前年度の研究成果から特に重点的に取り組むべき課題となっていた細胞内pH調節(プロトンの細胞外への排出)に関わる分子メカニズムについてフォーカスして解析を進めた。従来から知られる既知のプロトントランスポーター以外の候補として、通常はリソソーム膜などに局在しATPのエネルギー依存的にプロトンを輸送できるV-ATPaseに着目し、その分子動態を詳細にイメージング解析するための作業に取り組んだ。その結果、特定サブユニットの蛍光融合タンパク質を安定発現させることで、内在性V-ATPaseと同様の局在を示す細胞を構築することができた。また、PRL高発現誘導性のlysosomal exocytosisによってリソソーム内腔に蓄えられたカテプシンが分泌されていることを明らかにすることもできた。プロトン排出による酸性環境適応とは異なる仕組みでがん浸潤などの悪性化に関わる仕組みの発見につながる可能性を示した重要な研究成果であり、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの本研究での成果として、PRL高発現によって酸性環境で選択的に増殖している細胞ではプロトンが積極的に排出されており、またそれが既知の細胞膜局在性のプロトントランスポーターによるものでないことが示されていた。それらの成果に基づいてリソソーム内腔にプロトンを輸送するV-ATPaseに着目し、2021年度にはその分子動態をイメージング解析で明らかにするための蛍光タンパク質融合型のプローブを作成することができた。2022年度にはこれを用いて、V-ATPaseの細胞膜への移行や、また細胞膜でどのように留まっているかなど詳細な解析を進めてゆく。また、lysosomal exocytosisに伴ってプロテアーゼのカテプシンが分泌されていることや、がん浸潤との関係の深いTGFbetaシグナル伝達とlysosomal exocytosisの関わりも明らかになってきたので、がん悪性化に寄与する仕組みとして細胞外マトリックスの分解や細胞の浸潤運動などとの観点からも解析を進めてゆくことを考えている。
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