研究課題
S100A8/A9誘導性脳指向性転移をHRGがどのように阻害するかの分子原理の解明ならびにHRGによるがん転移抑制補充療法の有効性の可能性を検討した。本年度の成果は次の通りである。①HRGがS100A8/A9を物理的に吸着し、S100A8/A9のがん細胞への受容体を介した作用を消失させることを明らかにした。②脳転移が起こっている肺がん患者において血中のHRGが顕著に低下していることを明らかにした(S100A8/A9は顕著に上昇)。③マウスの肝臓においてHRG産生を低下させると、がん細胞の肺・脳転移が劇的に加速した。④HRGのがん転移抑制補充療法を行うため、HRG組み換えタンパク質の高効率産生系を確立し、計画実験に必要なHRG組み換えタンパク質を大量調製した。しかし、HRGは血中半減期が短いことが判明し、これを克服すべくHRGに抗体IgGのFcを融合させたHRG-Fcを新たに作成した。当HRG-FcはS100A8/A9吸着能を失うことなく半減期の顕著な延長につながった。現在、HRG-Fcのがん転移抑制の有効性についてマウスモデルにて検討中である。⑤HRGによるS100A8/A9吸着のみでは、HRGによるがん転移防御のすべてを説明することができず、その他の可能性についても追求した。HRGはS100A8/A9で刺激していないがん細胞に対しても運動能や増殖を抑制することから、何らかの受容体を介した作用とS100A8/A9吸着作用が複合的に働いてがん細胞の転移防御に大きく寄与していることが判明した。がん細胞そのものに対して働くHRGの受容体に関して新規候補を19種見出すことに成功した。これらの中から、がん細胞で働く受容体2種を同定した。現在、これら2つの受容体のがん抑制シグナル伝達・機能の本態解明について研究を続行している。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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