研究課題/領域番号 |
20H03518
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
堀川 啓介 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 客員准教授 (60313095)
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研究分担者 |
滝澤 仁 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特別招聘教授 (10630866)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪性リンパ腫 / B細胞 / がん遺伝子 / 点突然変異 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
B細胞の自然免疫と獲得免疫に必須のシグナル伝達分子であるMYD88とCD79Bのアミノ酸置換変異は、さまざまなリンパ腫で認められる。本研究では、新規作製したCD79B変異マウスを利用して、MYD88-L265P変異とCD79B-Y196H変異がどのように協調的に作用し、B細胞を癌化させるようなシグナルを伝達するのかを解析を行なった。
CD79B-Y196H変異の自己反応性B細胞への影響を調べるために、トリ卵白リゾチーム (hen egg lysozyme, HEL) を特異的に認識する免疫グロブリントランスジェニックマウスと可溶性HELトランスジェニックマウスとの交配を行い、CD79BY-196H変異がB細胞のアナジーと呼ばれる不応答状態を回復させるかを調べた。HEL免疫グロブリンおよび可溶性HELを発現するCD79B-Y196H変異マウスには、野生型マウスと同程度の数のB細胞が存在し、野生型と同じように細胞表面IgMの減少が認められた。これらのことは、CD79B-Y196H変異によってもB細胞のアナジーのメカニズムは保たれていることを意味する。
次に、CD79B-Y196H変異が抗原受容体シグナル伝達にどのように影響するかを調べるために、野生型および変異マウスからB細胞を磁気ビーズで精製し、抗原受容体刺激後に可溶化タンパク質を抽出しウェスタンブロット法により、ERK、NFkB、AKTなどの主要なシグナル経路の変化を調べた。野生型B細胞に比し、CD79B変異B細胞では、抗原受容体刺激後のリボソームタンパクS6やAKTのリン酸化が亢進していることが分かった。ERK、NFkB経路への影響は認められなかった。これらのこから、CD79BY-196H変異は主にPI3K-AKT経路の異常を引き起こすと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD79B-Y196H変異によりB細胞アナジー(不応答状態)が破綻するという仮説を基に、抗原特異的なB細胞抗原受容体のトランスジェニックマウスを用いた解析を行なった。仮説に反し、CD79B-Y196H変異によるアナジーB細胞の影響はなかった。CD79B-Y196H変異B細胞のシグナル解析により、PI3K-AKT経路が特異的に更新するという結果が得られた。
COVID-19によるマウス飼育の制限による実験計画の変更があったが、以上のような重要な知見が得られたため、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究結果から、CD79B-Y196H変異によりPI3K-AKT経路が異常に活性化されることが分かった。2021年度は、MYD88-L265PとCD79B-Y196H変異が悪性リンパ腫に高頻度に共存することに着目し、MYD88-L265PとCD79B-Y196H変異が協調してB細胞に及ぼす影響の解析を行う。目的2および3Aを行う。 目的2 MYD88-L265PとCD79B-Y196H変異がB細胞に及ぼす影響の解析 野生型およびCD79B-Y196H変異をもつHEL免疫グロブリンB細胞を活性化させ、レトロウィルスを用いてEGFP単独、野生型MYD88、MYD88-L265Pを発現させる。対照群とMYD88-L265P/CD79B-Y196Hを発現するHEL特異的B細胞を、可溶性HEL存在下で培養し、自己反応性B細胞の増殖と抗体産生細胞への分化をフローサイトメトリーやELISAで解析する。 目的3A MYD88L265PとCD79BY196H変異により協調的に誘導される遺伝子の同定 Toll様受容体からMYD88を介するシグナル伝達は主にNFκB転写因子を活性化させ、B細胞の数々の機能を惹起する。DNAマイクロアレイの結果、興味深いことに、MYD88-L265P変異の単独発現でPrdm1を含む抗体産生細胞への分化に重要な遺伝子群の発現上昇が認められたが、実際には抗体産生細胞への分化は起こらなかった。このことから、CD79-Y196H変異によるPI3K経路の活性化により、MYD88-L265P変異により誘導される遺伝子群が変化し、抗体産生細胞への分化が起こるという仮説が考えられる。CD79B-Y196H変異によってMYD88-L265P変異による遺伝子誘導がどのように変化するかを調べるためにRNAシークエンスによる探索的な遺伝子発現解析を行う。
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