本研究は、研究代表者がDNA損傷時にアポトーシスを誘導するp53のSer46リン酸化酵素として同定したDYRK2に関し、さらなる機能解析を目的としている。具体的にはDYRK2の、大腸がんにおけるDYRK2の抗腫瘍効果に着目し、大腸がんに対するアデノウイルスを介したDYRK2過剰発現による遺伝子治療を検証した。まず、大腸がん細胞株を用いたin vitro解析から、アデノウイルスを介したDYRK2の過剰発現が、キナーゼ活性依存的に、細胞増殖の抑制ならびにアポトーシスを誘導することを確認した。次に、大腸がん細胞株のXenograftモデルを作製し、腫瘍にアデノウイルスを直接注射することでDYRK2過剰発現の効果を検証した。その結果、in vitroの解析結果と同様に、DYRK2のキナーゼ活性に依存し、皮下移植腫瘍の細胞増殖の抑制効果が確認された。さらに、皮下移植腫瘍の組織化学的解析による一細胞レベルでの検証から、DYRK2の過剰発現細胞では、キナーゼ活性依存的に、KI67陽性率の減少、ならびにCaspase 3陽性率の増加が確認された。 最後に、転移性大腸がんにおけるアデノウイルスベクターを用いたDYRK2発現の効果を検討するため、大腸がん肝転移マウスモデルにアデノウイルスベクターを尾静脈から血管内投与する治療モデルを構築した。その結果、尾静脈へのアデノウイルスを介したDYRK2の過剰発現が、肝臓への転移結節数および腫瘍重量を減少させた。 以上のことから、アデノウイルスを介したDYRK2の過剰発現が、大腸がんの増殖・転移を抑制することを示した。このことは、アデノウイルスによるDYRK2の過剰発現が、切除不能な転移性大腸がんに対する新たな遺伝子治療の選択肢となる可能性を示している。
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