研究課題
本研究では、KRAS;LKB1変異(KL)型非小細胞肺がん(NSCLC)患者が示す免疫チェックポイント阻害剤抵抗性を克服するため、KL型NSCLCに特徴的な免疫微小環境形成の分子機序解明、およびKL型NSCLCに対して抗腫瘍免疫で中心的な役割を担うcGAS-STING経路を活性化する薬剤の探索を目的とする。1、細胞外cGAMPが腫瘍微小環境に与える影響の解析これまでの研究成果において、KL型NSCLCではcGASにより産生されSTINGを直接活性化する細胞内セカンドメッセンジャーcGAMPが細胞外へ排出されることを明らかにした。そこで、本年度は分泌されたcGAMPが、近傍の腫瘍細胞あるいは腫瘍微小環境を構成する細胞群にどのように作用するかを解析した。その結果、細胞外cGAMPに対して特に血管内皮細胞が強い反応性を示し、血管透過性の亢進が誘導されることを明らかにした。腫瘍組織内に免疫担当細胞が浸潤するためには、まず初めに血管腔内から腫瘍組織内へ血球細胞が滲出する必要があり、腫瘍微小環境における細胞外cGAMPが、血管透過性の亢進を介してその役割の一部を担うと考えられた。2、STING経路を活性化する薬剤探索のためのスクリーニング実施KL型NSCLC細胞株H1944を用いて、既存の抗がん剤やDNA修復経路や有糸分裂を標的とした分子標的薬を中心にSTING経路を活性化する薬剤を抽出するためのスクリーニングを行った。その結果、Spindle assembly checkpointの制御因子であるMPS1に対する阻害薬がMicronuclei形成の誘導を伴ってSTING経路を活性化することを見出した。さらにウエスタンブロットや、PCR、ELISAなどの生化学的手法により、抽出した薬剤が実際にcGAS-STING依存的に1型インターフェロン経路を活性化することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
2020年度の研究実施計画は主に「1、KL型NSCLCに対してSTING経路の活性化を介して治療効果を示す薬剤の探索」と「2、KL型NSCLCに特徴的な免疫微小環境形成の分子機構解明」であった。1に関しては、当初の計画通り薬剤スクリーニングを実施し、KL型NSCLC細胞に対してSTING経路を活性化させる薬剤として複数の薬剤を見出したが、特にSpindle assembly checkpointの制御因子であるMPS1に対する阻害剤が非常に強いSTING活性化能を有することを見出した。本年度はMPS1阻害によるSTING経路活性化機構の分子機序解明や、STING経路活性化が免疫細胞との相互作用に与える影響を解析する予定であるが、KL型NSCLCに対してSTING経路の活性化を誘導する薬剤の探索という2020年度の研究目標に関して、おおむね順調に達成したと考えられる。2に関しては、腫瘍細胞より分泌されるセカンドメッセンジャーcGAMPの腫瘍微小環境への役割に焦点を当て、申請者がこれまで開発してきたマイクロ流体装置を用いた腫瘍細胞Spheroidと免疫細胞、血管内皮細胞などとの3次元共培養系を用いて解析を行った。その結果、腫瘍細胞より分泌されら細胞外cGAMPが、特に血管内皮細胞に反応し血管透過性の亢進を誘導することを明らかにした。本研究成果をすでに研究論文として発表しており(M.Campisi, S.Kitajima et.al. 2020, Frontiers in immunology)、KL型NSCLCに特徴的な免疫微小環境形成の分子機構解明という2020年度の研究目標に関して、おおむね順調に達成したと考えられる。
1、STING経路を誘導するためのMPS1阻害剤投与最適条件の決定これまでに申請者は、KL型NSCLC細胞株に対して、Spindle assemble checkpointのMaster regulatorであるMPS1阻害薬がMicronuclei形成の誘導を伴ってSTING経路を活性化することを見出した。そこで本年度は、まず初めに、in vitroにおいて最も効率的にSTING経路を活性化するMPS1阻害薬の投与条件を検討する。具体的には、投与濃度、投与時間の影響、あるいは薬剤除去後のSTING活性化持続期間などを、STINGの代表的下流サイトカインであるCXCL10の分泌を指標に解析し、適切な薬剤および投与条件を決定する。2、MPS1阻害剤投与による抗腫瘍免疫活性化の評価In vivoでMPS1阻害剤投与が抗腫瘍免疫に与える影響を解析するため、同系マウスモデルを用いて、免疫療法に対して治療抵抗性を示すマウスKL型NSCLC細胞株の作製を目指す。具体的には、研究開発代表者が有するC57BL/6やBALB/c等由来の各種マウスKras変異型肺がん細胞を用いて、CRISPR/Cas9系によりLkb1を欠損させることで、ヒトKL型NSCLC細胞と同様に、STINGの発現減少や、同系マウス皮下移植後に抗PD-1/PD-L1抗体投与に対する治療抵抗性を誘導できるか検討する。Lkb1欠損により抗PD-1/PD-L1抗体投与に対する治療抵抗性を誘導できた場合は、抗PD-1/PD-L1抗体とMPS1阻害剤単剤あるいはエピジェネティクス阻害剤との併用投与を行い、腫瘍形成に与える影響を解析する。また同時に、腫瘍組織を回収し、遺伝子発現や微小環境内の免疫細胞の組成をWestern BlottingやRNA-sequence、FACSなどにより解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Frontiers in immunology
巻: 11 ページ: 2090
10.3389/fimmu.2020.02090