研究課題
本研究は、大腸がんの新規治療標的遺伝子を探索するために、二つの課題に分けて研究を進めている。A. DSS誘導性大腸炎がん関連遺伝子の生体内スクリーニング本年度は、生体内スクリーニングで同定された遺伝子のがん化における機能検証を行うと同時に、どのようにがん化に寄与しているのかの分子機序解明に着手した。具体的には、腫瘍抑制的に機能する遺伝子に着目し、ApcとKras変異を保持するマウス由来大腸腫瘍オルガノイドにおいて CRISPRにより候補遺伝子をノックアウトした。この遺伝子改変オルガノイドを免疫不全マウスへ皮下移植し、がん形成が促進するかをマウス生体内で検証した。また、炎症関連がん特異的に機能すると考えられる遺伝子も同定されてきたので、これらが慢性炎症とどのように関連しているのかについて解析を行った。具体的には、大腸上皮オルガノイドにIL-1β, TNFα, IL-6など、DSS誘導性大腸炎で高発現している炎症性サイトカインを各々添加し、網羅的発現解析や、メチル化ヒストンに対するChIP-seq解析を行った。これにより、ある種の炎症性サイトカインがエピゲノム変化を介した発現変化を引き起こせる可能性を示した。B. CRISPRを用いたAPC遺伝子欠損細胞における合成致死遺伝子の網羅的探索スクリーニングに使用するヒト大腸がん細胞株の選定、スクリーニングを行うためのライブラリの準備、細胞回収を行う条件検討の準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
A.DSS誘導性大腸炎関連遺伝子の候補を数十個同定したが、この中に、細胞老化に関わるものやアクチビンシグナル経路に関与するものが高頻度に同定された。細胞老化経路が炎症関連がんにどのように寄与するのかを明らかにするために、マウス大腸上皮細胞由来オルガノイドにおいて種々の炎症性サイトカインを添加し、形態観察、網羅的発現解析を行った。すると、あるサイトカインを添加した時のみオルガノイドの形態が球状に変化し、細胞老化遺伝子の発現上昇も観察されることが示された。さらに、この形態変化や老化関連遺伝子発現変化はエピゲノム制御を介していることもわかり、現在は、ChIP-seqを行い詳細な解析をさらに進めている。B.APC野生型の大腸がん細胞を親株とし、この細胞にてAPCを欠損させ、APC遺伝子以外は同じ遺伝学的背景を持つ細胞株一対を共同研究により新に作成した。この一対の細胞株で網羅的CRISPR-Cas9スクリーニングを行い、APC欠損細胞特異的に消失するgRNAを同定することを目的として実験準備を進めている。現在は、CRISPRライブラリを導入してから細胞を回収するタイミングを決定するために、細胞増殖に不可欠な遺伝子群に対するgRNAを準備し、細胞に導入後、どのくらいの期間で消失するかの条件検討を行うことを計画している。gRNA消失のタイミングが、CRISPRライブラリを導入した細胞を回収するタイミングとなる。細胞増殖に不可欠な遺伝子として、ANAPC2やPLK1等を標的遺伝子としている。
A.炎症性サイトカインを添加したオルガノイドにおいて、転写抑制を示すH3K27me3と転写活性を示すH3K4me3に対するChIP-seqを行う。さらに、RNAシーケンスを行い、これらの結果を統合して解析することにより、炎症性サイトカインがどのようなエピゲノム変化を起こすことで発現変化を誘導するかを明らかにする。さらに、これらの発現変化がオルガノイドの形態変化にどのように結びつくかを明らかにする。これらの解析から、炎症を伴うがん形成特異的に機能する分子機構を解明する。B.作成したAPC変異細胞株において網羅的なCRISPR-Cas9スクリーニングを行い、ゲノムを回収する。次世代シーケンサー解析によりgRNAの頻度解析を行い、APC欠損細胞特異的に消失するgRNAを同定する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Journal of Pathology
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Frontiers in genetics
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