研究課題/領域番号 |
20H03536
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
横須賀 忠 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (10359599)
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研究分担者 |
町山 裕亮 東京医科大学, 医学部, 講師 (40704606)
若松 英 東京医科大学, 医学部, 講師 (40632617)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キメラ抗原受容体 / CAR-T細胞 / シグナル伝達分子 / イメージング / マイクロクラスター / 免疫シナプス / 免疫チェックポイント / T細胞補助シグナル |
研究実績の概要 |
キメラ抗原受容体CAR-T細胞療法は、多発性骨髄腫に対する適応が日本においても認可されと同時に、順調に臨床での使用が進んでいる。一方、CAR-T細胞も養子免疫療法としてT細胞へのCAR遺伝子導入を方法の基本とする限り、免疫チェックポイント受容体などによるT細胞疲弊という問題を抱えている。ゆえに、すでに第4のがん治療として確立した免疫チェックポイント阻害療法の革新的な治療成績から、CAR-T細胞療法と抗PD-1/PD-L1抗体投与との併用や、CARと既存または新規のがん治療法との併用療法がさまざなま治験として遂行されている。しかしいずれの治療も非常に高額であり、根本的に疲弊しないCARそのものをリ・エンジニアリングする選択肢も試されるべきたと考えた。一貫した超解像1分子1細胞研究によって、T細胞の活性化はTCRをコアとするシグナルユニット「マイクロクラスター」によって制御されることを明らかにしてきた。また先行研究からはCAR-T細胞においてもマイクロクラスターが活性化の最小ユニットとして機能していることが示唆されている。この結果からTCRマイクロクラスターと同様に、CARもPD-1と同じシグナロソームとして同じマイクロクラスターを形成しているためCARシグナルも抑制されること、よってCARとPD-1のマイクロクラスターを分画することで疲弊を回避可能なCARのニューデザインが見えてきた。本研究では、これら先端的分子イメージングの視点からCAR-T細胞を介したがん抗原の認識と細胞傷害機能、CAR-T細胞疲弊が誘導される分子メカニズムを解明し、免疫チェックポイント受容体による機能抑制を自発的に解除するCARをリ・デザインすることで、より効果的かつ経済的なCAR-T細胞療法を提案することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト(h)CD19およびhCD5 CAR-T細胞のシグナルソームを観察するため、それぞれのリガンドhCD19およびhCD5を導入した人工平面脂質二重膜を用い、共焦点レーザー顕微鏡および超解像度全反射傾向顕微鏡にて受容体および下流のシグナル伝達分子の挙動を解析した。CARの高さを変えるべくStalk部位の設計、つまり延長または短縮することで免疫チェックポイント受容体との高さの違いを生み出すことでマイクロクラスターとして共局在を回避させ、CARのデザインの参考にした。既存のhCD19/CD5 CAR分子の基本画像データは順調に取得でき、イメージングのデータを数理学的データ解析するための単純なプログラミングを行い、これまでの計測方法のバージョンアップを行かたちで解析した。その結果、CARのリン酸化のイニシエーションを制御するSrcファミリーキナーゼLckの1分子解析では、CARマイクロクラスターの内外でのLckの明確な運動の違いを確認できた。またPD-1とCARとの同時多色観察を行い、現行のデザインではCARとPD-1とは完全にシグナロソームとして一致することが分かった。また、このときに抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体を添加すると、PD-1のクラスタリングは解離し、CAR-T細胞の活性化の上昇と疲弊解除が確認された。Stalk部位を伸長するため、CARのエクトドメインの先端に位置する抗体部位と細胞膜貫通領域直上のStalkの部位との間に、CD4、CD22、CD31などの背の高い分子のエクトドメインを挿入し検証している。
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今後の研究の推進方策 |
PD-1以外の免疫チェックポイント分子CTLA-4、TIGIT、CD96、LAG3とPD-1との局在を、PD-1と同様の抗原提示人工平面脂質二重膜を用いて解析する。既にそれぞれのリガンドであるCD80、CD155、MHCさらにPD-L2を導入した二重膜の実験系は樹立している。CARとリガンドとの高さの算出をまずはHASSOCK、ZDOCK、LightSock、ClusProのプラットフォームを利用したシミュレーションにてインシリコでの分子の大きさ・高さを算定する。PD-1シグナロソームとの共局在から回避するようなCARのデザインでは、Stalk部位にマウスCD4を挿入した型が最も理想的な反応性を示した。レトロウイルスを介したCARの遺伝子導入での相同性組換えを避けるため、マウスCD4にさらにhCD4を挿入することで、より背の高いCARをデザインする。疲弊自己解除型hCD19およびhCD5 CARの生理機能の評価として、担がん状態の長期曝露と初期の細胞死の2フェーズを評価する。より正確な細胞傷害活性の評価として、細胞傷害アッセイの標的細胞にはhCD19またはhCD5を発現させた線維芽細胞株NIH3T3もしくは胸腺腫ラインEL-4を用いる予定である。RLuc遺伝子をそれら標的細胞に導入し、蛍光色素の培地流入を測定し細胞障害の検定を行えるようなhCD19およびhCD5の実験系を構築する。並行してINF-γのELISA測定もしくはELISPOTアッセイを行い、RLucを用いた細胞障害活性との相関からCARの評価を行う。
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