研究課題/領域番号 |
20H03539
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
土居 久志 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (00421818)
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研究分担者 |
乾 隆 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80352912)
喜田 達也 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (70641968)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | SN-38誘導体 / 18F-標識PETプローブ / プロスタグランジンD合成酵素 / 低分子抗癌剤 / 小分子輸送タンパク質 / DDS製剤 / セラノティクス / 癌診断と治療 |
研究実績の概要 |
SN-38は強力な抗癌活性を持つが、難水溶性のため臨床使用には至らなかった。実際の臨床では溶解性を改善したイリノテカン(SN-38プロドラッグ)が医薬品として使用されているが、その抗癌活性は体内代謝過程の影響からSN-38の数百倍も低下している。そのため、患者への投与量は必然的に多くなり負担も大きい。そこでSN-38の溶解性を改善すべく、著者らは10位フェノール性水酸基にフルオロアルキル基等を導入したSN-38誘導体を開発してきた。その中でも10-O-フルオロプロピル置換SN-38誘導体 (RLC-140050)は、従来のSN-38よりも溶解性は約19倍改善し、かつ、抗癌活性は約2倍高い。これを踏まえて、本研究では抗癌活性化合物RLC-140050のPETイメージングを目的として、まずは、その18F-標識体(PETプローブ)の化学合成を行い、さらにこれを低分子輸送タンパク質(プロスタグランジンD合成酵素)に内包させることにより、新しい薬物輸送型セラノスティクス研究(癌の画像診断と治療)の創出を目指すこととした。 18Fは放射性の陽電子放出核種であり半減期は約110分である。そのため、本研究では放射線被曝を防ぐためにホットセル内に設置した専用の合成装置を遠隔操作して、また合成時間は90分以内を目標として、目的の18F-標識体の化学合成を行なった。具体的には、まず標識ユニットとなる1-[18F]フルオロプロピル-3-ブロマイドを合成し、これを蒸留移送法によりSN-38溶液に添加した。続いてアルカリ性条件下、SN-38の10位フェノール性水酸基に対して10-O-[18F]フルオロプロピル化を施した。その結果、合成時間は70分で約1.6 GBqの放射能を持つ18F-標識RLC-140050を得た。また、本PETプローブは生体投与可能な品質基準(放射能や純度)を十分に満たしていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、抗癌活性SN-38誘導体の18F-標識PETプローブの合成化学研究と、低分子輸送タンパク質であるプロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた薬物輸送(DDS)研究の両者を組み合わせて、新しいセラノスティクス(癌の画像診断と治療)の創出を目指すものである。 最初の取り組みとして、先行研究で開発した10-O-フルオロプロピル置換SN-38誘導体 (RLC-140050:従来のSN-38よりも溶解性が19倍高く、抗癌活性は2倍高い)の18F-標識体の化学合成を検討した。18Fは放射性の陽電子放出核種であり半減期は約110分である。そこで本研究では、放射線被曝を防ぐためにホットセル内に設置した標識用合成装置を遠隔操作して、かつ、合成時間は90分以内を目標として、目的の18F-標識RLC-140050([18F]RLC-140050)の合成を検討した。まず、[18F]KFと1-トシルプロピル-3-ブロマイドを反応させて、標識ユニットとなる1-[18F]フルオロプロピル-3-ブロマイドを合成した。続いて、反応溶液にHeガス(40 mL/min)を吹き込みつつ、溶液を120 ℃の温風で加熱することで1-[18F]フルオロプロピル-3-ブロマイド(沸点99-101 ℃)蒸発させ、連結チューブ内を通じてSN-38溶液に添加した(蒸留移送法)。次にアルカリ性条件下、SN-38と反応させて10-O-[18F]フルオロプロピル化を行なった。最後にHPLC分離精製と調剤を行ない、約1.6 GBqの放射能を持つ目的の[18F]RLC-140050を得た。本合成は70分以内で完結し、溶液のpH値は約7、比放射能は約450 GBq/μmol、化学純度は93%、放射化学純度は99%であった。これらの結果は生体投与可能な品質基準を満たしていた。本合成は実験を繰り返して再現性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
10-O-フルオロプロピル置換SN-38(RLC-140050)の18F-標識体([18F]RLC-140050)の化学合成法が確立できたので、今後は、放射性の[18F]RLC-140050をプロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)に内包させて、目的の[18F]RLC-140050/L-PGDS型DDS製剤の作成を進める。まずは、合成した[18F]RLC-140050溶液をL-PGDS溶液に加えて混合するという比較的簡単な製剤法を検討する。なお、研究分担者である乾らの熱力学研究によると、この製剤化におけるギブス自由エネルギーは負であり、一つのL-PGDSに対して数個のRLC-140050が自然に内包されることがわかっている。このような科学的根拠の下に、[18F]RLC-140050/L-PGDS型DDS製剤の作成を進めていく。しかしながら、この熱力学実験は大過剰の非放射性RLC-140050を用いた場合の結果である。事実、私どもが合成できる放射性[18F]RLC-140050はせいぜい2.5 nmol程度であり、これを5.0 mL溶液にした場合、約0.5 μMという超希薄濃度となる。製剤化においては、この超希薄溶液と約100 μMのL-PGDS溶液を混合することになるが、このような希薄条件において目的の内包化(製剤化)ができるかどうかは、従来の有機化学・薬化学分野の知見が少ないため予測がつかない。この先、困難が予想されるが、研究分担者と科学理論に基づいた議論をして、試行錯誤しながらも内包化実験を行なっていく。もし、本件の調剤法がうまく確立できれば、速やかに小動物PETイメージングに展開していく。具体的には、正常あるいは癌を担持させたマウス(またはラット)に上記のDDS製剤を投与して、癌組織への移行性や集積の有無をPETイメージングにより確認していきたい。
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