研究課題/領域番号 |
20H03541
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
大橋 紹宏 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, ユニット長 (80835249)
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研究分担者 |
鹿島 幸恵 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (80831883)
影山 俊一郎 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (60644979)
小林 進 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (70792836)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | CDC7阻害剤 / TAK-931 / 複製ストレス / がん治療薬 / 橋渡し研究 / 併用療法戦略 / マルチオミックス解析 |
研究実績の概要 |
DNA複製・修復機構の中心プレーヤーであるcell division cycle 7 (CDC7)キナーゼを特異的に阻害する低分子化合物TAK-931(国際一般名称Simurosertib)の創出に世界に先駆け成功した(Science Advances 2019)。ハイスループット酵素アッセイ系の構築やCDC7阻害化合物のデザインが難しいため、世界的に見てもCDC7を狙った低分子化合物の研究・開発は遅れている。TAK-931は高活性、高選択性、drug-likenessを有したCDC7特異的阻害化合物として創出された。 本研究では、これまでの前臨床・臨床知見をより発展させながら、1)大規模併用スクリーニングを行い、TAK-931がどのような化学療法剤と併用効果を示すかを明らかとする、2)リン酸化プロテミクス解析を行い、上記併用効果の細胞内シグナルの動きを明らかとする、3)上記細胞内シグナル変動の生物学的意義を、細胞・分子生物学的アプローチやsiRNAスクリーニングを用いて明らかとする、4)臨床腫瘍株(PDX)モデルを用いたin vivo併用薬効試験を行い、上記併用効果の臨床応用への可能性を示すことを目的とし、共同研究者と協力しながら研究を進めて予定である。これらの科学的な知見と国立がん研究センターが有する豊富な臨床情報や産学連携の創薬プラットフォームとをうまく融合させながら、DNA複製ストレスをターゲットとした新規治療法の開発が本研究の最終目標である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画を下記の4つの項目に分け、多角的かつ効率的に競争力のある研究を進めていく。実験①:TAK-931と化学療法剤もしくはIRとのin vitro併用スクリー ニング。実験②:IR併用処理のリン酸化プロテミクス解析(実施済)および作用機序解明。実験③:SN38併用処理におけるsiRNAライブラリースクリーニング。実 験④:ヒト臨床腫瘍モデルを用いたin vivo併用薬効試験。 それらの研究項目の中で、本年度は特に、リン酸化プロテオミクス解析データおよびiRNAスクリーニングデータを用いた生命情報解析(BI解析)に注力し、TAK-931のDNA損傷剤との併用効果の分子メカニズムの可視化をを試みた。リン酸化プロテオミクス解析データから、TAK-931が相同組み換え活性を阻害することでDNA修復の遅延を誘導し、その作用機序を介し化学療法剤やIRの抗腫瘍効果を増強させていることが明らかとなった。siRNAスクリーニングデータからは、BRCA経路やmRNA catabolic process, Cytoplasmic translational initiationなどの経路がTAK-931のDNA損傷剤との併用感受性に影響を与えることが明らかとなった。さらに、これらの情報と臨床データベースなどを組み合わせ、ヒット遺伝子やヒットシグナル経路の臨床的意義を確認している。
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今後の研究の推進方策 |
併用療法研究によりTAK-931と相乗効果を示す化学療法剤が同定されれば、併用パートナーの対象癌種を主軸においた「対象疾患の絞り込み」が可能となり、TAK-931の開発戦略を決定する上で非常に重要な情報となる。また、併用療法研究はTAK-931の新規作用機序解明という点でも非常に有効な研究アプローチである。 「併用効果=合成致死」ととらえることができるため、併用パートナーの作用機序情報を活用しながら、ケミカルバイオロジーと薬理学アプローチからCDC7キナーゼの新規メカニズム解明にもつながる。本研究を通じて、TAK-931の新規併用療法の立案という臨床的意義を示すと同時に、CDC7キナーゼの新規メカニズム解明といった癌の基礎研究に対しても貢献していきたい。
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