研究課題
BRAF変異は、がんの8%程度に認めるドライバー遺伝子異常である。その多くはV600E変異であるが、遺伝子パネル検査の発展に伴いV600以外の変異も同定されている。変異BRAFは、キナーゼ活性に従い3つのサブタイプ(Class I~Class III)に分類され、申請者はその分類が治療に生かせることを示してきたが、サブタイプ分類されていない変異も多数存在する。本年度は、TCGAやMSK-IMPACTなどの大規模遺伝子解析研究において同定されているBRAF変異のうち、これまでに機能が明らかとなっていない約100種類について機能の同定を行った。mouse embryonic fibroblast(MEF)に変異BRAFを発現させ、下流シグナルの活性化能を検討したところ、これまでに明らかとなっていなかった機能性変異約10個を新たに同定した。これらの機能性変異について、RASを構成するKRAS, NRAS, HRASをすべて欠損したRAS less細胞を用いRAS依存性を現在評価している。また、BRAF non-V600変異大腸がん症例より全エクソームシーケンス解析とRNAシークエンス解析を行い、Gene Set Enrichment Analysisなどの手法を用いClass IIおよびClass IIIに分類されれるBRAF non-V600変異大腸がんに特異的なシグナルパスウエイについて同定を進めている。Class I変異大腸がんに対しては、研究者らが提唱した抗EGFR抗体+BRAF阻害薬が保険償還されている。Class I変異大腸がんにおけるMAPKシグナル依存性をシグナル解析をもとに評価し、新たな標的分子の候補を同定した。
2: おおむね順調に進展している
BRAF変異の機能性分類については、①Fibroblastに導入した場合の下流シグナル活性化の有無、②RAS less細胞を用いた受容体およびRAS依存性の有無、の2点について別々の系を用いた評価が必要である。両者について、2017年Natureに報告された手法を報告したグループと連携しながら開始したが、安定した結果が当初得られずアッセイ系の確立に時間を要した。年度の後半になり①については系の確立を認め、機能性変異の同定が進んでいる。②の受容体およびRAS依存性の有無を評価する手法については、独自のアッセイ系を新たに構築し、既存の方法と比較検討しながら進めており、安定した結果が得られつつある。BRAF non-V600変異腫瘍の発現およびパスウエイ解析については、必要十分な検体が得られたことから、シークエンス作業が順調に進んでいる。パスウエイ解析については、別研究で確立した手法が使用可能なことから、研究計画通り順調に進んでいると判断している。
機能不明バリアントについては、昨年度までに約100種類の機能性の有無について評価が終了している。本年度は残りの機能不明バリアントの機能性の有無について評価を終了する。その上で、機能を有するバリアントについて、クラス分類をRAS less細胞株を用いて評価を行う。クラス分類については、2021年度中に終了を見込んでおり、これまで既に文献上Class分類が報告されたものと、本課題により新たに明らかになったものを使用し、BRAF変異機能を予測するモデルの構築に着手する。BRAF non-V600変異がんのがん種やクラス分類による機能の違いについては、まず昨年度得られたBRAF non-V600変異大腸がんの変異・発現プロファイルを用い、各クラス分類に特徴的なシグナルパスウエイの同定を行う。大腸がんの解析で得られたデータを他のがん種に拡張するため、TCGAなどのデータベースより変異・発現プロファイルを入手し、BRAF non-V600腫瘍の臓器特異性について探索する。BRAF V600変異大腸がん、肺がんに対しては、昨年度得られた、感受性や耐性に関わる候補分子について、機能評価を進める。
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