研究課題/領域番号 |
20H03543
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
籠谷 勇紀 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫応答研究分野, 分野長 (70706960)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 養子免疫療法 / キメラ抗原受容体 / T細胞性リンパ腫 / エピジェネティクス / 転写因子 / メモリーT細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、抗腫瘍T細胞の長期生存能を高めるために、T細胞性リンパ腫細胞で変異が報告されている遺伝子群に着目して抗腫瘍T細胞に遺伝子導入を行い、その機能解析(細胞増殖能、サイトカイン分泌、細胞傷害活性など)の解析を通じて、持続的な抗腫瘍効果の改善に寄与する遺伝子修飾標的を同定することを目標としている。 本年度はin vitroにおけるスクリーニング実験により、キメラ抗原受容体 (CAR)導入T細胞において遺伝子Aをノックアウトすることで、未分化なメモリーT細胞形質が有意に維持され、またサイトカイン分泌能も亢進することを見出した。ノックアウトCAR-T細胞を腫瘍を移植した免疫不全マウスに輸注すると、T細胞の持続的な生存能の改善が確認され、この結果としてコントロールのCAR-T細胞と比較して、腫瘍増生をより長期間抑制できることがわかった。腫瘍細胞の種類、導入するCARの種類を変えて複数の治療モデルにおいて、同様のデータを確認した。遺伝子Aのノックアウトにより一過性の細胞傷害活性はむしろ低下していたが、長期生存能が賦与されることにより、結果として治療効果の改善につながることが示唆された。 さらに、遺伝子AをノックアウトしたCAR-T細胞の遺伝子発現、エピジェネティックプロファイルについて、それぞれRNAシークエンス、ATACシークエンスを用いて網羅的に解析したところ、ゲノムワイドに広範な変化が起きていることを確認した。具体的にはメモリー形質を特徴づける表面抗原分子や、メモリー形成に重要な転写因子の発現亢進が見られ、またこれらはエピジェネティック変化と相関していたことから、エピゲノム変化を介したT細胞の機能改変が起きていることが確認された。今後は遺伝子Aのノックアウトによる細胞傷害活性低下を補う追加遺伝子修飾を探索することで、さらに治療効果を高めることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目標としている養子免疫T細胞療法の治療効果改善に資する遺伝子修飾標的として、スクリーニング実験を通じて具体的な遺伝子を同定し、その機能解析、及び遺伝子発現・エピゲノムレベルでの変化について解析を行うことが年度中に完了することができたため、順調に進展していると考えられる。 来年度以降に同定された遺伝子にさらなる付加的な遺伝子修飾を行うことで、研究のさらなる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果に立脚して、以下の2つの観点から研究を推進する。まずはこれまでにT細胞の長期生存能改善に寄与することが確認できている遺伝子Aの修飾(ノックアウト)に着目して、ノックアウトT細胞の機能をさらに高めるための付加的な遺伝子修飾を探索する。具体的には遺伝子Aのノックアウトにより抗腫瘍T細胞の単発の細胞傷害活性そのものは減弱することが確認されていることから、これを補うような遺伝子修飾を追加することで、さらに治療効果を高められる可能性がある。T細胞のエフェクター機能には複数の転写制御因子が関わることが知られているため、これらを個別に導入することで、遺伝子Aの修飾との組み合わせにおいて最も効果の高い遺伝子修飾を探索・同定する。in vitroの実験系で有望な候補遺伝子を同定した後、in vivoでの治療効果への影響を前年度あまでに用いた複数の腫瘍モデルにより評価する。 一方、前年度までの探索を通じて、遺伝子Aの関連分子やそれ以外の転写制御因子においても、T細胞の機能修飾 (メモリー形質、細胞増殖能、細胞傷害活性など)を起こす因子が複数同定されている。これらについても同様に治療効果への寄与について評価を進めながら、特に変化の大きい遺伝子修飾については、必要に応じて遺伝子発現・エピゲノムプロファイルの解析を行う。また近年の報告ではメモリー・エフェクターT細胞の機能がそのエネルギー代謝状態 (解糖系、酸化的リン酸化)により大きな変化を受けることが明らかとなってきたため、遺伝子A、その他T細胞の機能変化を起こす標的については、遺伝子修飾に伴うT細胞のエネルギー代謝状態の変化を解析することを計画する。
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