本研究は、がん抗原を認識するT細胞を体外で準備して患者に輸注する養子免疫療法の治療効果を高めることを目的として、T細胞での特定の遺伝子改変を通じてその長期生存能を高めること、及びその分子機序解明を進めた。 広範な探索を通じてT細胞の自己複製能亢進に関わる複数の転写制御因子を同定したが、特にBlimp1をコードするPRDM1遺伝子の欠失がT細胞の長期生存能亢進に寄与することを見出した。複数の腫瘍モデルで、Blimp1欠失抗腫瘍T細胞が持続的な抗腫瘍効果を誘導できることを確認した (Yoshikawa et al. Blood 2022)。本研究成果は、がんに対する養子免疫療法、例えば現在血液腫瘍に対して実臨床で用いられているキメラ抗原受容体 (CAR)導入T細胞療法などの治療効果を高めることへの応用性を持つ。CAR-T細胞は一過性には治療効果が高いが、その後の再発などで持続的な治療効果が得られる症例は限定的であることから、輸注されたT細胞の長期生存能を高めることで、治癒を目指した治療法開発が可能となる。 さらに、機能低下を来した疲弊T細胞にも着目して、T細胞間の異質性の解析を進めた。特に未分化性を保持している前駆疲弊T細胞分画に特徴的な分子機構を探索して、CD83分子が前駆疲弊T細胞を同定する有用な指標となることを見出した (Wu et al. Commun Biol 2023)。免疫チェックポイント阻害剤をはじめとするがん免疫療法では、治療効果を予測するバイオマーカー探索が重要であり、長期生存能に優れた前駆疲弊分画をマークするCD83分子に関する知見は有効性予測に寄与することが期待される。
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