記憶・学習やナビゲーションに重要な役割を果たす海馬のニューロンは、動物が環境内のある場所を通るときに活性化する特徴的な「場所細胞」活動を示す。これまでの研究で我々は、シナプス後部の足場タンパク質Shank2を欠損した自閉スペクトラム症モデルマウスが、頭部を固定したバーチャルリアリティ空間で空間学習の異常を示すこと、また、その海馬ではランドマーク地点をコードする細胞の集団の形成に特異的な異常が見られることを明らかにした。このような機能回路の異常を理解するためには、生後脳の発達過程の神経回路活動を解析し、その形成と成熟のメカニズムを明らかにすることが必要である。本年度は以下の研究を行った。生後発達に伴う海馬ニューロンの膜電位変化を明らかにする目的で、海馬CA1野の錐体細胞にアデノ随伴ウイルスベクターを用いて蛍光膜電位センサータンパク質を発現させるための実験を行った。発現後の固定切片で観察すると、CA1野の錐体細胞の細胞体と樹状突起に蛍光膜電位センサータンパク質の良好な発現が見られた。また膜電位の変化は細胞内カルシウム応答よりも速い現象であるので、高速に蛍光画像を取得できるsCMOSカメラとカスタム顕微鏡をセットアップし実験に用いた。これらに加えて、バーチャル環境下で行動するマウスの脳活動を広視野カルシウムイメージングで解析し、領域間の機能的結合が行動の開始と終結に伴ってダイナミックに変化すること、および自閉スペクトラム症モデルマウスでは、その行動状態依存的な変化に異常がみられることを明らかにした。
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