研究課題/領域番号 |
20H03551
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
野村 洋 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (10549603)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 記憶 |
研究実績の概要 |
認知症をはじめとして認知機能障害では過去の記憶を思い出せなくなる想起障害が生じる。しかし、想起障害を回復させる治療法はいまだ確立していない。私たちはヒスタミンH3受容体逆アゴニストが忘れた記憶の想起を回復させることをマウスやヒトで明らかにしてきた。しかし、想起回復に伴う神経活動の変化は不明である。そこで本研究では記憶想起が回復する際の神経活動を解明するために研究を進めた。 記憶課題に取り組むマウスの嗅周皮質の神経活動を測定するため、嗅周皮質の神経細胞に蛍光カルシウムセンサータンパク質を導入した。そしてGRINレンズを嗅周皮質の上部に埋め込んだ。この操作により、嗅周皮質の神経細胞の活動に伴う蛍光強度変化を可視化することができた。頭部搭載型の小型顕微鏡を用いたin vivoカルシウムイメージングにより、記憶課題中の多数の神経細胞の活動を測定した。マウスは新規物体認識試験に取り組んだ。マウスは、トレーニングでは2つの同じ物体を探索し、テストではトレーニングで学習した既知物体と、初めて見る新規物体を探索した。トレーニングを経験していないマウスは、2つの異なる物体を同程度探索した。しかし、トレーニング時の記憶を想起できるマウスは、新規物体を長く探索した。こうした行動の変化を指標として記憶の想起を判定した。この行動課題中の嗅周皮質の神経活動を解析することで、物体探索に特徴的な嗅周皮質神経細胞の活動を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿って、記憶想起の回復に伴う嗅周皮質神経活動の解析に取り組んだ。アデノ随伴ウイルスベクターによって蛍光カルシウムセンサーを十分に導入し、目的の脳領域にGRINレンズを埋め込んだ。そして実際に多数の神経細胞のカルシウム活動を明瞭にイメージングすることができた。このデータをもとに現在一細胞単位の解析や細胞集団をまとめた解析に取り組んでいる。以上のことから、総合的に考えると全体として概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、記憶課題に取り組むマウスの嗅周皮質の多細胞の神経活動をin vivoカルシウムイメージングにより測定する。蛍光カルシウムセンサーを嗅周皮質の神経細胞に導入し、極細のGRINレンズを嗅周皮質上部に埋め込む。そして頭部搭載型の小型顕微鏡により、嗅周皮質の神経活動を測定する。特に、記憶課題のトレーニング時のイメージング像とテスト時のイメージング像を照合することで、日をまたいで同じ神経細胞の活動を解析する。トレーニング時に活動した細胞がテスト時の記憶想起時に再び活性化するかを解析する。また複数の細胞によって構成される細胞集団の再活性化を調べる。 また、記憶想起の回復に再活性化が必要か、その因果関係についても解析を行う。一連の検討により、ヒスタミンによって記憶想起が回復する神経回路メカニズムを明らかにする。
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