研究課題/領域番号 |
20H03554
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野本 真順 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (20636253)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スキーマ / ヒューリスティクス / アイドリング脳 / 知識形成 / 転移学習 / カルシウムイメージング / 神経活動デコーディング / 学習・記憶 |
研究実績の概要 |
脳は経験から意味や概念を抽出し、他の状況に応用可能な「知識」を創る優れた機能を有する。しかし、獲得した経験(エピソード記憶)から知識がいつどのように発生し、利用されるのかそのメカニズムを示した研究はない。 本研究では、マウスの思考をデコーディング可能な新規行動実験系と最先端の神経活動計測・操作テクニックを起点に、「アイドリング時に記憶同士がリプレイを介して照合・統合されることで知識が生まれる」と仮説を立て、従来アプローチ不能であった経験から生じる知識の獲得機序を明らかにすることを目的とする。 これまでに申請者は、自由行動下でライブイメージングかつCA1-LFP測定可能なマウスにおいて、「報酬獲得に必要な動作と合図(modality)は異なるものの、『動作→合図→報酬』という隠れた共通ルールを有する」オペラント条件付け課題をデザイン・開発した。エピソードA課題を習熟したマウスをエピソードB課題に供した場合、課題Bの1日目では、成績が低いものの、2,3日目では成績が急速に向上し、アイドリング状態で過去の経験が照合されていることを暗示するようなデータが得られている。以上の結果より、申請者は報酬獲得に必要な動作と合図は異なるものの、『動作→合図→報酬』という隠れた共通ルールを有する2つの課題を開発してきた。 2021年度は、これら2つの課題用いて、エピソードA課題の習得に依存して、エピソードB課題が遂行できる条件を確立する。続いて、アイドリング状態の脳機能の関与を示すため、この行動条件下でエピソードB課題を新たに行う際に断眠実験を行い、行動への影響を解析する。この結果から、アイドリング状態の知識獲得への関与を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度では2つの課題用いて、エピソードA課題の習得に依存して、エピソードB課題が遂行できる条件(エピソードA記憶とエピソードB記憶が相互作用する条件)の確率を目指した。 その結果、A課題を学習したマウスは、報酬獲得に必要なルールが異なるB課題の一日目において、既に高い学習成績を示し、マウスが過去の経験を未知状況において応用することができることを示唆された。これは人工知能分野における転移学習の生物学的基盤を理解する良いモデルになることを示している。さらに、化学遺伝学的手法により皮質領域の神経活動をB課題遂行時に抑制したところ、B課題における経験依存的報酬獲得パフォーマンスが顕著に低下し、この新規課題における経験依存的報酬獲得パフォーマンスは、皮質領域が重要であることがわかった。 続いて、行動中および睡眠中のマウスの皮質領域における神経活動をin vivoカルシウムイメージングにより記録した。所属機関で独自に開発した連続的な神経活動(シークエンス神経活動)を教師なし学習により抽出するアルゴリズムを用いて行動中およびノンレム・レム睡眠時の神経活動の数理解析を横断的に行った。その結果、シークエンス神経活動を構成する亜集団が睡眠と行動で相互作用していること発見した。以上の結果は、経験を他の状況に応用可能にするためには皮質領域が必要であること、また、課題遂行時およびアイドリング脳状態において特有の神経表現があることを示唆しており、さらに本研究課題を遂行することで、知識形成における皮質領域の役割を明らかにできると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、これら2つの課題用いて、エピソードA課題の習得に依存して、エピソードB課題が遂行できる条件(エピソードA記憶とエピソードB記憶が相互作用する条件)を確立する。続いて、アイドリング状態の脳機能の関与を示すため、この行動条件下でエピソードB課題を行う前、すなわちA課題のアイドリング脳状態中に神経活動の操作をすることで行動への影響を解析する。また、カルシウムイメージングデータの数理解析を進め、どのような神経表現が経験を他の状況において活用できるようにしているかを解析する。
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