研究課題/領域番号 |
20H03557
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
保前 文高 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (20533417)
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研究分担者 |
橋本 龍一郎 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (00585838)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳の形態形成 / 構造機能連関 / 脳回 / 発達 |
研究実績の概要 |
胎児期に大脳の脳溝が形成される順番には個人間で一貫した傾向があり、在胎週数20週から30週の間に主な脳溝が形成されることが報告されている(Chi et al., 1977; Garel et al., 2001)。31週以降には、ヒトに特有な脳溝形成が進み、さらに40週前から個人ごとの差異が顕著に現れるような形成がなされるとの仮説が提示されている(Lewitus et al., 2013)。30週までに、全ての脳溝が成人と同様には形成されていないことをふまえて、29週以降の白質表面における凹凸を数値化することで、脳溝形成がどのように進むかを検討することを目的とした。早産児・新生児・乳児のMRI(画像数N = 553)のそれぞれから再構成された白質の表面において、メッシュの頂点ごとに主曲率を求めて、shape index(s, Koenderink and van Doorn, 1992)を計算した。また、Mesh Geometry(https://github.com/neuroanatomy/meshgeometry)を用いて、白質表面の面積と体積、脳溝周囲の長さを計算した。得られた結果は、以下のようにまとめられる。29 週から45 週の間に白質の表面積は約6 倍になり、脳溝が形成されるとともに白質表面の脳回相当領域が相対的に減少するが、脳溝の縁に相当する鞍点をなす頂点の表面に占める比率はほぼ一定である。このことは、脳溝周囲の長さの増加率が表面積の増加率と同等であることを示している。白質の表面積を脳溝周囲の長さで除した平均脳溝間隔を計算すると、週数に依らずに8.5 ~ 9.0 mm 程度(中央値) となった。この結果は、大脳皮質表面のニューロンの増加が、皮質表面の面積を増加させるとともに、脳溝の形成に寄与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、研究の進捗に遅れが生じたが、2020年度の研究を2021年度に繰り越すことで、概ね順調に進めることができた。the Developing Human Connectome Project(dHCP)の2nd Data Releaseを対象に解析を進めてきたが、2021年度に3rd Data Release(http://www.developingconnectome.org/data-release/third-data-release/)が発表されたため、このReleaseにアクセスすることができれば、より多くのデータを用いて検討を進めることができるようになる。新生児の脳のMRI構造画像は、コントラストが成人の脳画像とは異なるとともに、灰白質や白質の表面を抽出することが難しいという問題がある。既に白質表面がメッシュとして公開されているデータを用いるとともに、複数の方法を用いて、より精度を上げる試みをこれまでに進めてきている。本研究課題を遂行している間に、新たに公開されている方法も含めて、研究協力者とともに改善に取り組む予定である。また、研究代表者と研究分担者は密に連絡が取れる状況にあり、新生児のデータから得られた知見から、成人における脳溝の特徴を検討する環境が整っている。成人においては、特に、機能に関する検討を進める準備を行っており、文献の調査や適切なfMRIデータの撮像方法についての議論が行えている。以上の理由から、概ね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
構造に関しては、白質表面の凹凸に注目したこれまでの解析を進める。特に、脳溝の深さ、平均曲率、皮質厚などのパラメータに対して、局所的な空間構造を解析し、個人ごとの脳溝にある特徴を取り出す。個人の発達過程において、複数時点で脳画像を撮像している縦断データを解析することが重要になると考えられる。 また、当初計画していた通りに凹部の灰白質のニューロンの線維束が結合する先と、凹部の灰白質直下の線維束がどのような領域間を結合しているかに焦点を当てて、皮質の曲率によらずに凹部の分類をすることで、脳溝を形成する皮質の特徴を明らかにする研究を開始する。脳溝は、個人ごとに同定して対応がつけられるほどに個人間の共通性があると同時に、個人差も大きい(Ono et al., 1990)。胎児期に形成される脳溝は、個人間の共通性が高いと想定される。本研究では、脳溝の皮質が、脳回、脳溝、皮質下のどの領域と神経線維束の結合をしているかによって脳溝を分類し、従来の一次、二次脳溝の分類と比較することで、脳溝の特徴を明らかにする予定である。このために、データベースに含まれるMRI構造画像と拡散テンソル画像を利用して、位置の対応付けを個人ごとに行う。データを大量に解析することができるように、自動化をする方法について検討する。 機能に関しては、成人の脳の自発活動が脳表面で進行波をなすと想定して、脳溝の走行方向に対して、進行波がどのように進むかを調べる解析方法を検討し、実際のfMRIデータを用いて可視化する。方法が確立した際には、新生児期のデータにおいて同様の解析が行えるかを検討する。
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