研究実績の概要 |
本年度は、29週以降の早産児、新生児、乳児の皮質表面における凹凸を数値化し、凹部にあたる脳溝と凸部にあたる脳回の皮質厚が週数によってどのように変化するかを検討した。本解析では、the Developing Human Connectome Project(Hughes et al., 2017; Makropoulos et al., 2018; Bozek et al., 2018、2nd release、2019年、http://www.developingconnectome.org/project/)で公開されている早産児・新生児・乳児のMRI構造画像を用いた(画像数N = 553)。脳表を構成する三角形の頂点ごとに主曲率を求めて、shape index(Koenderink and van Doorn, 1992)を計算し、値によって7つの形態に分類した(-1から1となる順に、spherical cup, rut, saddle rut, saddle, saddle ridge, ridge, dome)。全脳の皮質厚の平均値を調べると、35週までは個人差が大きいものの、全体としては週数とともに平均値が大きくなる傾向が明らかになった。shape indexにより脳表を構成する頂点を分類すると、domeは脳回に、spherical cupは脳溝の底部に多く現れることが確認できた。7つの形態それぞれにおいて、皮質厚の平均値を求めると、shape indexの値が高い領域、すなわち、凸部のほうが、凹部よりも皮質厚が厚い傾向が認められた。domeでは、37週以前にはshape indexが0近傍のsaddleと同程度である場合もあり、週齢に伴う増加が顕著であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、資材の供給不足によって研究の進捗に遅れが生じたが、2021年度の研究を2022年度に繰り越すことで、予定していたワークステーションを導入することができて、概ね順調に進めることができた。大脳皮質において、脳回の頂点周囲に相当するcrownは脳溝底部よりも皮質が厚いことが知られている。磁気共鳴画像法(MRI)で得られた脳構造画像の解析によって、成人(Fischl and Dale, 2000)だけでなく、新生児・乳児(Li et al., 2015; Holland et al., 2020)においても、その傾向が報告されている。在胎週数30週までには、全ての脳溝が成人と同様には形成されていないことをふまえると、脳表における形態的特徴とともに皮質の厚みが変化することが予想される。この予想に基づいて、延べ553名のデータをもとにしたグループ解析を中心にして進めてきたが、早産児の場合には2時点のデータがある場合もあり、個人内の発達的な変化を見ることで、グループ解析の傾向が個人ごとに現れるかどうかについても検討することができている。新生児の脳のMRI構造画像は、コントラストが成人の脳画像とは異なるとともに、灰白質や白質の表面を抽出することが難しいという問題があるが、dHCPのMRI画像を詳しく見ると、37週以降のデータは比較的安定している傾向が認められるため、これまでの結果をもとにして、37週以降のデータに焦点を当てて検討を進める方向性についても見いだせてきている。研究代表者と研究分担者は密に連絡が取れる状況にあり、新生児のデータから得られた知見から、成人における脳溝の特徴を検討することも進められている。成人においては、特に、機能に関する検討を進めるように議論を重ねている。以上の理由から、概ね順調であると判断している。
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