研究実績の概要 |
多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)をはじめとする免疫性神経疾患では、病態の核として、T細胞上に発現する共抑制性受容体の機能不全が知られ、慢性的な持続炎症と病態進行の原因となっている可能性がある。MS病態においてCD8陽性(CD8+)T細胞はその神経細胞傷害性機能が想定されてきたが、最近になり炎症病態抑制性の機能が報告され注目されている。申請者は予備実験としてMS患者末梢血を用いて、PD-1陽性(PD-1+)CD8+T細胞の病勢や治療反応性との関連を分析し、急性期髄液においてはこの細胞亜分画がステロイドパルス療法への反応性の良い群で増加し、寛解期末梢血においてはインターフェロンβ治療によって分化誘導され再発抑制と関連していることを発見した。本研究ではPD-1との共発現因子を制御する鍵の一つとして転写因子c-Mafを同定した。c-Mafを発現したCD8+T細胞はPD-1を含む共抑制性受容体の発現を促進し、抑制性サイトカインIL-10を産生することなど、免疫制御機能を有していることを明らかにし報告した(Koto S, Chihara N, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm., 9(4):e1166, 2022)。本研究により、MS患者の病勢や治療反応性を反映したCD8陽性T細胞亜分画を新たに同定し、その免疫制御機能を発見した。このT細胞亜分画は進行性の良好な経過を反映した新たなバイオマーカーとして用いることができるのみならず、そのPD-1と共発現する遺伝子群が神経障害の進行する患者の予防する新規治療標的となる可能性があり、今後さらに検討を行ってゆく。
|