アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患の克服は、社会的要請の大きな世界的課題である。そのため、発症分子機構を明らかにして、創薬標的を早急に提示する必要がある。これまでの神経細胞中心に着目した研究の限界が世界規模で懸念されており、脳内環境として神経細胞以外のグリア細胞と神経細胞の相互作用の解析が着目されはじめているが、その複雑性から解析は遅れている。これまでに炎症制御を目指し、AD初期病理:アミロイド病理に対するインフラマソームの役割について検討を進めてきた。アミロイド病理を呈するAPP knockinマウスに対して、インフラマソーム構成因子の一つCaspase-1/11の double knockoutマウスとの交配種の解析を行った。また、ベルギーとの国際共同研究において、インフラマソームおよびNF-kB関連分子についてのconditional knockout系での解析も進めてきた。その結果、いずれに炎症制御因子(炎症加速因子および炎症抑制因子)もアミロイド病理形成には関与しないという予想外の結果に至った。また、インフラマソーム構成因子NRLP3の欠損マウスとAPP knockinマウスの交配種の解析結果も同様で、これらマウスの脳を用いたsingle cell RNAseq解析を行ったところ、ミクログリアでは炎症性分子の発現は高まっていないことが改めて示された。これらをまとめて論文投稿し、Frontiers in Immunology誌に共同第一著者として掲載された。これまで脳内の炎症応答はAD病理の増悪化に寄与すると考えられてきたが、本解析結果は、これまでの通説に対する反証となった。また非炎症性のグリア応答が、AD病態形成に重要である可能性が浮上し新たな作業仮説となった。
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