研究実績の概要 |
SCN2Aは自閉スペクトラム症や統合失調症などの神経発達症を有する患者で最も頻度高く新生ヘテロ機能喪失変異が見られる遺伝子である。しかし、Scn2aヘテロ欠失マウスは、新規環境下における過活動、不安行動の亢進と恐怖除去障害などの異常は示すが、他者への興味の喪失などの社会性異常などははっきりと見出されない(Tatsukawa et al., Mol Autism 10:15, 2019)。Scn2a遺伝子の全身ホモ欠失マウスは新生児期致死である。そこで、限局した脳部位でのScn2aホモ欠失により、生存可能なマウスモデルを作出し、それらにおける社会性行動異常の検出やScn2aヘテロ欠失マウスで既に見られた行動異常の再現などによる責任脳領域の同定を期待して実験を行った。2020年度は、ホモfloxed-Scn2aマウス(Ogiwara et al., Commun Biol 2018)の、これらの異常をもたらすと予想される脳部位(前頭前野、背側線条体、側坐核、視床下部、扁桃体、腹側被蓋野など)にCreリコンビナーゼを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV-Cre)を打ち込み、責任領域の同定を試みた。結果、一部脳領域において社会性行動異常やプレパルス抑制の亢進などの行動異常の傾向を見出すことに成功し、更にそれらの再現性の確認、注入部位の正確性の確認、それら脳領域におけるScn2aがコードするNav1.2タンパクが発現する神経細胞種の探索などを進めた。その他、行動異常発現を左右する環境因子の同定のためのマウスモデルの準備を進めた。
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