本研究では、以下の結果を得た。 1、Nav1.1の分布をGFP発現でモニターできるSCN1A-GFPトランスジェニックマウスにおいて、Nav1.2の分布を検討することにより、大脳皮質においてはNav1.2は皮質-線条体、皮質-視床、および皮質-皮質投射細胞に発現し、一方、Nav1.1は錐体路投射細胞と皮質-皮質投射細胞の一部に発現し、両者は相互排他的であることを確認した(論文投稿中)。 2、Nav1.2の統合失調症関連脳部位特異的な欠損が行動障害にどのように寄与しているのかを詳細に解析することで、SCN2A変異を有する患者の疾患発症に関与する神経回路・発症メカニズムを検討した。特定の脳領域のみでScn2aを除去することにより表出する異常は小さいことが想定されるため、ヘテロではなくホモ(父親と母親由来両方の染色体)で除去したマウスを使用した。Scn2aホモfloxedマウスの内側前頭前皮質(mPFC)または腹側被蓋野(VTA)にアデノ随伴ウイルス(AAV)を注入してCre組換え酵素を同領域の神経細胞で発現させ、脳部位特異的にScn2aがホモで欠損しているマウス作製し、それを用いて統合失調症のエンドフェノタイプとして用いられる精神生理学的指標の一つである聴覚性驚愕反応のプレパルス抑制(PPI)を含む行動試験を実施した。その結果、mPFCにおけるScn2aの欠損は、PPIの低下、相手マウスへのアプローチ回数の増加、自発運動量の低下、不安様行動の亢進を示した。一方、VTAにおけるScn2aの欠損はPPIの上昇を示した。これらの結果は、mPFCにおけるSCN2A遺伝子の欠損は同遺伝子に変異をもつ患者の統合失調症に関連するPPIを低下させる原因であり、一方、VTAにおける欠損は逆にその効果を高めることを示唆している(論文投稿中)。
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