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2020 年度 実績報告書

脳内免疫環境変化の解析によるアルツハイマー病の病態解明と治療への応用

研究課題

研究課題/領域番号 20H03569
研究機関京都薬科大学

研究代表者

高田 和幸  京都薬科大学, 薬学部, 教授 (10434664)

研究分担者 石原 慶一  京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (80340446)
西村 周泰  京都薬科大学, 薬学部, 助教 (90527889)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワードアルツハイマー病 / アミロイドβ / ミクログリア / 貪食 / TGF-β1 / 造血幹細胞 / 移植 / Smad2/3
研究実績の概要

アルツハイマー病の病態形成機序の解明と根本的治療法の開発が待たれる。脳免疫担当細胞ミクログリアは、アルツハイマー病の発症原因物質アミロイドβ(Aβ)を貪食し、病態に対して抑制的に働く一面がある。当研究者は、加齢や病態特異的な脳環境の変化によるミクログリアの性質変化が、アルツハイマー病の病態形成において本質的な役割を果たすと考えている。そこで、ミクログリアの性質変化、すなわち脳内免疫環境の変化を理解し、制御することがアルツハイマー病の本質的な治療に繋がると予想している。これまでに当研究者は、アルツハイマー病病態下の脳内免疫環境に変化をもたらすべく、造血幹細胞からミクログリア様細胞を作製して脳内に移植すると、モデルマウスでみられる認知機能障害が改善することを見出している。しかし、作用機序には不明な点が残されていた。
本研究では、移植細胞として用いた造血幹細胞由来ミクログリア様細胞の培養上清を初代培養ミクログリアに処置したところ、初代培養ミクログリアのAβ貪食機能が促進されることがわかった。そこで、サイトカインアレイ解析により培養上清を解析するとtransforming growth factor-β1(TGF-β1)が豊富に含まれており、一方で、リコンビナントTGF-β1を初代培養ミクログリアに処置すると、TGF-β1受容体を介してSmad2/3経路が活性化され、Aβ貪食機能が促進された。さらに、造血幹細胞由来ミクログリア様細胞を移植したアルツハイマー病モデルマウス脳内でも、TGF-β1が増加しており、内在性の脳内ミクログリアはTGF-β1受容体を発現していた。また、TGF-β1受容体阻害薬を処置すると、細胞移植による脳内Aβの減少が抑制されることがわかった。TGF-β1シグナル活性化による脳内免疫環境の制御がアルツハイマー病に対して抑制的な効果をもたらすことが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2020年度において、アルツハイマー病病態における脳内免疫環境を変化させることのできる因子として、TGF-β1を見出すことができた。すなわち、TGF-β1を補充することで、内在性のミクログリアのTGF-β1受容体を介したSmad2/3経路が活性化して貪食機能が促進され、アルツハイマー病の原因物質Aβの脳内蓄積の軽減につながる可能性を見出した。このことは、今後、アルツハイマー病の脳病態の解明や新規治療法の開発を進める上で重要な手がかりとなる。しかしながら、脳内免疫環境に変化をもたらし得る因子はこれだけでなく、また、老化やアルツハイマー病病態が引き起こす脳内免疫環境変化についてはほとんどわかっていない。この解明には、RNAシーケエンスのような、網羅的解析が必要となる。そこで現在、マウスにミクログリアの生存に必須となるCSF1受容体の阻害薬を混ぜた餌を与えることで脳内のミクログリアを枯渇させ、このミクログリアの枯渇により変化する脳内環境について遺伝子発現レベルでRNAシーケンスにより網羅的に解析している。このミクログリアノックアウト状態も含め、正常、老化さらにはアルツハイマー病脳病態により引き起こされる脳免疫環境をより網羅的に解析していく。

今後の研究の推進方策

昨年度の成果として、アルツハイマー病病態下において、脳内免疫環境を制御することで、モデルマウスでの脳内Aβ量が減少し、認知機能障害が改善することを見出した。この成果を発展させるべく、今後は、胎生期、発達期、成体期の正常状態と比較しながら、加齢やアルツハイマー病病態で引き起こされるミクログリアの性質変化、すなわち、脳内免疫環境の変化について、モデルマウスを用いてより網羅的に解析していく。さらに、当研究室でも、CSF1受容体の阻害薬を用いることで、脳内ミクログリア枯渇状態を作り出すことに成功していることから、ミクログリアノックアウト状態についても比較対象に含めて解析する。さらに、老化マウスやアルツハイマー病病態下のマウスの脳内ミクログリアを枯渇させ、ミクログリアの前駆細胞である胎生期の原始マクロファージをiPS細胞から作り出して移植することで入れ替え、脳内免疫環境のエビジェネティック変化をリセットした場合に、脳病態や認知機能がどのように変化するのか解析を進める。
以上について、新生仔期、成体期、老齢期の野生型マウスとアルツハイマー病モデルマウスを用い(1)認知機能は新規物体認識試験やY迷路、モリス水迷路により解析する。(2)免疫組織学的解析や画像解析によりミクログリアの総数や形態学的変化を解析する。(3)網羅的な遺伝子発現の解析は、ソーティングした細胞やダイセクションした脳組織を用いてRNAシークエンスで解析する。(4)他の免疫細胞(好中球、単球、T細胞など)とミクログリアの脳内構成比率についてはフローサイトメーターを用いて解析する。(5)各種脳内タンパク質量の変化はELISAやWestern Blottingによって解析する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Mouse Bone Marrow-derived Microglia-like Cells Secrete Transforming Growth Factor-β1 and Promote Microglial Aβ Phagocytosis and Reduction of Brain Aβ.2020

    • 著者名/発表者名
      Kuroda E, Nishimura K, Kawanishi S, Sueyoshi M, Ueno F, Toji Y, Abo N, Konishi T, Harada K, Satake S, Shima C, Toda Y, Kitamura Y, Shimohama S, Ashihara E, Takata K.
    • 雑誌名

      Neuroscience

      巻: 438 ページ: 217-228

    • DOI

      10.1016/j.neuroscience.2020.05.004.

    • 査読あり
  • [学会発表] 脳内免疫細胞ミクログリアとアルツハイマー病の細胞治療戦略2020

    • 著者名/発表者名
      高田和幸
    • 学会等名
      第14回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] アルツハイマー病病理におけるミクログリアの意義と治療を指向した機能制御2020

    • 著者名/発表者名
      高田和幸
    • 学会等名
      第52回日本動脈硬化化学会総会・学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 認知症の細胞治療戦略開発に向けた幹細胞由来ミクログリア様細胞の機能解析とその制御2020

    • 著者名/発表者名
      末吉真梨、西村周泰、芦原英司、下濱 俊、高田和幸
    • 学会等名
      第39回日本認知症学会
  • [学会発表] 骨髄細胞由来ミクログリア様細胞のミクログリアとの相互作用ならびにニコチン受容体刺激による機能制御の解析2020

    • 著者名/発表者名
      末吉真梨、西村周秦、北村佳久、芦原英司、下濱 俊、高田和幸
    • 学会等名
      第70回日本薬学会関西支部大会
  • [備考] 京都薬科大学・統合薬科学系ホームページ

    • URL

      https://labo.kyoto-phu.ac.jp/dips/index.html

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公開日: 2021-12-27  

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