研究課題/領域番号 |
20H03573
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
蔵野 信 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (60621745)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アポ蛋白M / スフィンゴシン1-リン酸 / 臨床検査 |
研究実績の概要 |
HDLには、コレステロール引き抜き能の他、生体にとって有用な多面的効果がある。さて、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は、多彩な生理活性を持ち、血漿S1Pの約3分の2がHDL上にアポ蛋白M(ApoM)を介して存在することから、S1PはHDLの多面的効果を担っていると考えられている。本研究では、「ApoM-S1Pに着目することにより、HDLの多面的効果、特に臓器機能保護作用を臨床医学に導入する基盤を作成すること」を目的としている。 2020年度は、ApoM-S1PによるHDLの臓器機能保護作用の機序を解明について、ApoM-S1Pは、肺胞上皮細胞株において、PAD4の発現を、S1P1およびS1P4依存的に抑制する可能性を見出した。また、神経細胞株では、ApoM-S1Pは、S1P5依存的にBACE-1の発現を抑制する可能性を新たに見出した。 ApoM-S1Pの生物学的作用の解明と疾患モデルマウスを用いたヒト疾患病態生理への関与についての検討については、ApoMノックアウトマウスでは、リンパ球のミトコンドリア機能が低下しており、このことがApoM-S1Pと免疫疾患とを結びつける可能性を見出した。また、ApoMノックアウトマウスでは、腎臓、脳のミトコンドリア機能が低下していることも、ex vivoの実験系で確認することができた。さらには、RNAシーケンス解析により、ApoM-S1Pの下流と考えられる新しい候補タンパク質を同定し、そのうち、文献情報等で有望な74タンパク質についてさらに解析を進めた。 ApoM-S1Pによる臓器保護作用の検査医学的応用については、収集した血液サンプル、髄液サンプル、尿サンプルのApoM, S1PについてELISA法、質量分析法にて測定を行っているとともに、アルツハイマー型認知症の脳サンプルについてのApoM, S1P測定の倫理的な承認・準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19による研究制限により、当初予定していた、ApoM欠損アルツハイマー病モデルマウスの作成、およびApoM-S1PのS1P受容体1-5の5種類のS1P受容体に対する偏向性の有無の細胞実験を用いた検討を実施することができなかった。 一方で、実験室で研究をできなかった間に、RNAシーケンス解析およびその後に候補タンパク質の同定、アルツハイマー型認知症の脳サンプルについてのApoM, S1P測定の倫理的な承認・準備を行うことができた。 また、S1P4とPAD4, S1P5とBACE-1といった新しい疾患モデルの鍵となるタンパク質とApoM-S1Pの関係も見出すことができ、研究の対象を広げることができた。 以上より、総じて判断すると「おおむね順調に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、2020年に実施することができなかった、ApoM-S1PのS1P受容体1-5の5種類のS1P受容体に対する偏向性の有無の細胞実験を用いた検討の実施を行う。一方で、研究期間中での実施が難しくなった、ApoM欠損アルツハイマー病モデルマウスの作成については保留とする。 その他は、おおむね計画通りに、ApoM-S1PによるHDLの臓器機能保護作用の機序を解明、ApoM-S1Pによる臓器保護作用の検査医学的応用を行う計画である。
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