研究実績の概要 |
6週齢のC57BL/6Jマウスにマウス肺癌細胞株(Lewis lung carcinoma, LLC)を側腹皮下に移植し、28日後にサンプリングし評価したところ、非移植対照群と比較し有意な骨格筋の萎縮・筋力・身体機能の低下(サルコペニア)を認めた。さらに、骨格筋におけるカテプシンK (Cat-K)の高発現、炎症、さらには筋タンパク同化に関わるAKT, mTORなどのリン酸化の抑制、またその上流のinsulin receptor substrate 1 (IRS1)の分解・不活性化を認めた。一方でCat-K 遺伝子欠損マウスでは移植した腫瘍の増大には影響を認めなかったが、サルコペニアは抑制され、筋肉におけるMCP-1, TNFαなどの炎症関連タンパクの発現低下、筋タンパク同化シグナルのリン酸化ならびにIRS1レベルは腫瘍を移植していない対照と大きな差を認めなかった。細胞実験ではCat-Kの発現の抑制により腫瘍細胞培養上清により誘導されたIRS1のユビキチン化を介した分解・不活性化が抑制され、さらにCat-Kの強制発現によりIRS1のユビキチン化が増強した。Cat-KはIRS1の268から574アミノ酸の間で結合し分解することが突き止めた。 これらの研究より、Cat-Kは悪液質による骨格筋で強発現し、筋肉におけるIRS1のユビキチン化を介して分解・不活性化し、筋肉におけるタンパク質同化反応を抑制し、サルコペニアの出現を増強することが明らかになった。さらに我々はCat-Kは筋肉細胞においてでカスパーゼの活性化を介してアポトーシスを誘導すること、またTLR2,4の発現を増強し炎症を誘導することを報告しており、腫瘍による悪液質に伴う二次性サルコペニアに対してCat-Kがこの病態の予防・治療に対する重要な分子標的であることを明らかにした。
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