研究課題
本研究は,うつ症状や認知機能低下に関する共通メカニズムとしてミクログリア(MG)xCTから放出されるグルタミン酸(Glu)の関与を明らかにするものである.<細胞実験>培養MGを用い,アミロイドβ(Aβ),MPTP,ビタミンE欠乏によるxCTの発現量の変化を検討した.MGが活性化されCT発現量が増加すると,培養上清にGluが放出されること,xCT阻害でGlu放出が抑制されることを明らかにした.<動物実験>①ビタミンE欠乏,②MPTP投与,③アルツハイマー病(AD)の各モデルマウスにおいてxCTの関与を検討した.①では,長期ビタミンE欠乏による認知機能低下,自発活動性低下は,xCT欠失では生じにくいことを明らかにした.また,ビタミンE欠乏の脳では,MGおよびアストロサイトにxCTの発現を認め,xCTから放出されるGluも重要である可能性が示唆された.②ではMPTP投与により,脳内MGにxCTが発現すること,MPTPによる自発性運動低下がxCT欠失マウスでは軽減されることを見出した.野生型とxCT欠失マウスを比較した際,MPTP投与によるドパミン神経脱落の程度には差がないことから,MPTPによる症状には,神経細胞脱落だけではなく,MGのxCTも関与していることを示した.③では,遺伝子改変によるADマウスとxCT欠失マウスの交配により,xCT欠失マウスではADとしての認知機能低下が軽減すること,またxCT阻害剤により認知機能低下を抑制できることを明らかにした.さらに,脳内Aβ蓄積もxCT欠失マウスでは軽度であることを明らかにした.<MG特異的xCT欠失マウスの作製>MG選択的にxCT遺伝子が欠失するマウスを作成した. ADマウスとの交配により,MG xCTを欠失したADマウスが誕生しており,今後,認知機能への影響やAβ蓄積の変化を検討する予定である.
2: おおむね順調に進展している
細胞実験,動物実験は概ね予定通りに進捗している.本申請課題の最も困難なステップであったミクログリア特異的xCT欠失マウスの作成に成功しており,同マウスを用いた各種疾患モデルを検討する予定である.また,xCT阻害可能な化合物の探索を開始しており,本プロジェクトは今のところ概ね順調に進んでいると判断される.
今後は動物モデル,特にコンディショナルノックアウトマウス(ミクログリア特異的xCT欠失マウス)を用いた検討の比率を高める.ミクログリア特異的xCT欠失マウスを用いた,MPTP投与パーキンソン病モデル,アルツハイマー病モデルの検討を行っている段階である.治療応用のための研究ステップとして,xCT機能を容易に検討できる実験系の確立,xCT阻害物質のスクリーニングを開始している.有望な化合物が見出された場合は,細胞および動物モデルで有効性を検討する.
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Translational Oncology
巻: 28 ページ: 101608
J Clin Biochem Nutr
巻: 70 ページ: 222-230
10.3164/jcbn.21-141