研究課題
骨組織は、骨格を支持する役割に加えて、造血やカルシウムの貯蔵庫、さらに骨由来ホルモンの産生を担う動的な組織である。加齢に伴い緩やかに骨量が減少し、多様な生理機能も低下する。その骨量減少は、性ホルモン低下に加え、活動量低下に伴う機械的刺激低下や、それを感知する骨細胞の機能低下が要因とも考えられている。骨基質に埋没している骨細胞は骨細管を伸ばし周囲の細胞と情報伝達を行うとともに、RANKLやsclerostinに代表される骨制御因子の分泌細胞でもある。また興味深い事に、細胞寿命が1ー50年と非常に長く、加齢に伴い細胞の配向異常や、骨細管数減少および変形が生じる。研究代表者は、加齢様骨量減少モデルマウスを用いた解析過程で、ミトコンドリア機能不全が骨細胞の加齢様変化を助長することを明らかにした。この結果は、ミトコンドリア由来のストレス応答が骨細胞の老化を促進する可能性を示唆した。また、分子機構としてミトコンドリア機能不全に付随して、統合的ストレス応答因子であるATF4転写因子を核集積(活性化)し、骨関連遺伝子群の発現を変化させること、さらに同時に核ラミナタンパク質(Lamin AとLamin B)減少による核構造変化も誘導して、加齢様骨量減少をもたらすことを明らかにしつつある。本研究では、ミトコンドリア機能不全によりストレス応答するATF4転写因子活性化の分子機構と核ラミナタンパク質動態の分子接点を明らかにし、老化ストレスによる骨細胞を起点とした骨老化の分子メカニズム解明を目指している。
2: おおむね順調に進展している
①ミトコンドリア機能不全によるeIF2αのリン酸化を介したATF4活性化機構の解析骨細胞でのミトコンドリア機能不全によるATF4活性化にISR経路が関与しているかどうか検証するために、骨細胞株MLO-Y4細胞をミトコンドリア機能不全誘導剤(ミトコンドリア脱共役剤)CCCP共存下で培養し、統合的ストレス応答経路阻害剤ISRIBを添加し、ATF4の活性化抑制と、また下流のLaminタンパク質の発現低下と核肥大を調べた。その結果、核ラミナタンパク質発現低下に伴う核肥大を有意に抑制でき、ISR経路の関与を示した。しかし逆の実験として、ISR経路活性化剤salubrinalを添加したが、細胞死が強く認められ、骨細胞株での解析は困難であった。次に、本活性化に関わるeIF2αキナーゼを同定するために、4種類のキナーゼに対する阻害剤投与実験を行った。その予備検討結果、PKR阻害剤C16もしくはGCN2阻害剤A-92添加では核肥大は抑制できなかったが、PERKおよびHRI阻害剤GSK260414添加で核肥大抑制の傾向が認められた。今後、責任キナーゼの確定のため、RNA干渉法によるノックダウン実験を進める。②ミトコンドリアストレス応答によるATF4活性化個体レベル(in vivo)でのATF4活性化を可視化するために、レポーターマウスを導入した。生体ストレス可視化マウス(UMAIマウス)は、様々なストレスに応答して、ATF4翻訳誘導をLuciferaseによる発光で可視化でき、活性化ATF4量を個体レベルで解析できる。UMAIマウスと骨細胞特異的SOD2欠損マウスを交配し、順調に解析個体の産仔を得つつある。骨組織での可視化を進める準備状況は整いつつある。
本研究を継続すると、骨細胞でミトコンドリア機能不全が、「統合的ストレス応答経路」を介してATF4の活性化をもたらし、かつ上流のeIF2αキナーゼの中でどのキナーゼが本ストレス応答において主要な役割を担うか特定できる。また、同時に転写因子ATF4の下流遺伝子を調べることで、sclerostin発現増加や核ラミナタンパク質(Lamin AとLamin B)発現低下の分子機構を明らかにできる。さらにモニターマウスを利用することで本現象が実際の骨組織(骨細胞)内で生じることが明らかとなる。今後、個体レベルでの実証が進めば、細胞寿命が極めて長い骨細胞の加齢プロセスで、ミトコンドリアが制御する骨恒常性を維持する分子機構の一端が明らかになることが期待される。
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