代表的な神経難病の一つであるパーキンソン病は、黒質のメラニン含有細胞の変性を特徴とする。その病態の分子メカニズムはなお明らかではない。近年、家族性パーキンソン病の原因遺伝子の機能解析を通して孤発性パーキンソン病の病態の解明が試みられつつある。パーキンは最も高頻度に発症する家族性パーキンソン病の原因遺伝子(PARK2)である。パーキンがユビキチン・リガーゼ(E3)活性を持つこと、およびミトコンドリアのオートファジーに重要な役割を担っていることより、ユビキチン・プロテオゾーム系の異常がPARK2の発症メカニズムの主要因であると考えられている。一方、我々はPARK2の病態解明を進める中で、パーキンがミトコンドリア遺伝子の転写・複製を促進することを早くから報告した。そしてミトコンドリア内においてパーキンはO型糖鎖修飾を受けていることを見出した。我々はこの糖鎖修飾がパーキンの機能にどのような影響を与えているのか、さらにパーキンソン病の病態にどのように関連しているのかを明らかにするため本研究を立案した。予備的検討により、修飾糖鎖にはO-結合型アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)が付加されていることを見出した。さらに、我々はパーキンがO-GlcNAc転移酵素(OGT)に結合していることを見出した。このことはパーキンが自らO-GlcNAc修飾を受けるのみならず、他のタンパクのO-GlcNAc修飾を制御している可能性を示唆するものである。 本研究では複数のアプローチ方法を用いて、予備的検討で得られた断片的な知見を踏まえ、パーキンとO-GlcNAc修飾機構との関連を系統的にさらに掘り下げて検証し、O-GlcNAcylationの障害が、PARK2のみならず孤発性パーキンソン病の発症メカニズムに寄与しうるか否かを明らかにする。
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