研究課題/領域番号 |
20H03593
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
金蔵 孝介 東京医科大学, 医学部, 准教授 (10508568)
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研究分担者 |
早水 裕平 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (80443216)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / LLPS / 液液相分離 |
研究実績の概要 |
2021年度はALS原因蛋白C9orf72が発現するArgリッチジペプチドの相分離機構を解明し、Argが交互に配置されることで、結合エネルギーには不利になるものの多価結合に有利であり、多くの酸性蛋白を相分離液滴内に取り込むことでこれらの機能を阻害し、細胞毒性を発揮することを明らかにした(Chen et al., J Cell Biol. 2021; Kanekura et al., Am J Phyiol Cell Physiol. 2022)。また、C9orf72ジペプチドがRNAと共に形成する液滴が固体界面で特殊な振る舞いを行うことを明らかにし、報告した(Chen et al., Langmuir 2021)。さらに我々はTDP-43の相分離を小化合物を用いて制御する技術を開発し、小化合物によるLLPS誘導によりTDP-43の折りたたみが変化し、不溶性となるとともにその細胞内局在が書くから細胞質へと変化し、ALSの病態を模倣しうることを報告した(Yamanaka et al., Lab. Invest. 2021; Kanekura et al., Neur Regen Res. 2022)。 また、我々は相分離液的内環境を測定できる新規マクロ分子クラウディングセンサーCRONOSを開発し、外的刺激により核小体の内部環境が変化することを明らかにした(Miyagi et al., BBRC 2021)。 この様に、本年度は多数の原著論文を発表し、ALS原因蛋白と相分離異常の関係の解明に大きく貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はC9orf72ジペプチドと相分離の関係を解明することができ、Argの配置が結合エネルギーと多価性を制御する新規分子機構を解明した(Chen et al., J Cell Biol 2021; Chen et al., Langmuir, 2021)。また、 ALS原因蛋白と相分離の関係を解明する技術として、小化合物でALS原因蛋白TDP-43の相分離を制御する技術を開発した(Yamanaka et al., Lab Invest 2021)他、相分離液的内環境を測定する技術を開発した(Miyagi et al., BBRC2021)。またそれらに関連するレビューを複数発表した(Am J Phyiol Cell Physiol 2022., Neur Regen Res 2022)。さらに、本年度はC9orf72ジペプチドおよびTDP-43の相分離誘導前後でのプロキシミティラベリングを行い、これらの結合因子を同定したほか、C9orf72ジペプチドと核酸との相互作用の直接計測技術を開発し、2022年度の研究の基盤を築いた。一方で、脳オルガノイドについては培養間による差が大きく、一貫した結果が得られなかったため、培養条件についてさらなる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通して、ALS原因蛋白の相分離制御技術および網羅的な相分離液的内環境測定技術を樹立してきた。今後これらの技術を複合的に用いることで、相分離による折りたたみ不全を標的とした小化合物スクリーニング法の確立を行い、原因解明から治療法開発へとつなげていきたい。また、分子動力学計算についても新たな手法を取り入れ、全体的に俯瞰可能な分子動力学計算法の樹立を目指したい。今年度はこれまでの総括として、ALS原因蛋白の相分離異常がなぜ細胞毒性を獲得し、ALS発症につながるのかを発表していく。特にC9orf72ジペプチドについては、poly(PR)とpoly(GR)の毒性機構の違いについて機能構造連関をin silicoおよびin vitroを組み合わせた解析により明らかにしつつあり、本年度論文化予定である。また、TDP-43やFUSの相分離制御が可能となったことから、これらの蛋白の相分離前後でのinteractome解析および相分離を標的とした創薬スクリーニング技術を開発していきたい。
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