研究課題/領域番号 |
20H03608
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
新井 誠 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (80356253)
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研究分担者 |
永井 竜児 東海大学, 農学部, 教授 (20315295)
瀧澤 俊也 東海大学, 医学部, 教授 (70197234)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 終末糖化産物 / 糖化ストレス / カルボニルストレス / グリケーション / 統合失調症 / 精神病様症状 / 思春期コホート / ライフステージ |
研究実績の概要 |
マウスモデルを用いた糖化ストレスの障害分子基盤研究から、Glo1KOとビタミンB6欠乏の遺伝×境因を組み合わせによる前頭皮質特異的なミトコンドリア機能障害を明らかにした。本所見は、糖化産物前駆体であるメチルグリオキサール除去機構の障害が統合失調症の発症に関与していたことを示した成果である。本研究で明らかになった障害メカニズムを考慮すると、メチルグリオキサール除去機構障害(GLO1機能障害とVB6欠損)を有する症例に対し、抗糖化、抗酸化物質やVB6の補充が新たな治療戦略として有効である可能性が考えられた。 ペントシジンと認知機能障害の関連解析では、認知機能の主領域のうち、処理速度低下がペントシジン上昇と有意に相関することを明らかにした。この所見は、交絡因子調整後も関連は有意であり、ペントシジン蓄積型症例に対する治療的介入、社会機能向上とリカバリーに繋がることが期待される成果である。 統合失調症患者におけるCNVs解析の結果、ペントシジン蓄積型症例ではmiRNAコード領域中のCNVs当たりの欠失・重複の出現頻度がペントシジン非蓄積型症例と比べて約13倍と高く、miRNAが標的遺伝子の発現変動を介してペントシジン蓄積を惹起していること、標的遺伝子群がシナプス可塑性、GABA・グルタミン酸神経伝達と関連することを見出した。本所見は、新たな客観的診断マーカーの確立、miRNAの薬理的修飾による脳内システム機能障害の修復による新たな予防戦略の創出が期待される成果である。ペントシジンが蓄積する症例の病態に強い影響をもつmiRNAが患者で高頻度に見つかったことから、今後、ペントシジン高値の統合失調症に対する治療アプローチのひとつとしてこれらのmiRNAを標的とした戦略が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床研究、ゲノム研究、マウスモデル研究は順調に進展している。次年度以降も引き続き、マウスに対する胎児期の糖化曝露モデルの分子基盤解明、霊長類を活用したライフステージにおけるペントシジンの発達軌跡研究についても一層の推進を図る。
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今後の研究の推進方策 |
剖検脳を基盤にした糖化ストレスの脳内ネットワークの解明では、ペントシジン蓄積の脳病理像の一端が明らかになりつつあるが、ヒト剖検脳を基盤にしたペントシジン蓄積の病理解明をさらに進展させる。 また、糖化制御とライフステージにおける健康アウトカムの因果を解明するため、思春期コホートと疾患データの相互検証から、糖化ストレスを引き起こす遺伝・環境要因を解明するとともに、客観的、非侵襲性の高い新たなマーカーの確立、先制介入点の同定を目指す。 さらに、新たな糖化蓄積モデル動物の作出とその行動薬理学的解析を継続し、推進する。特に、in vivo下におけるペントシジン合成系を活用することで、培養細胞系モデルにおけるペントシジン蓄積を介した細胞形態、遺伝子発現、生理機能へ与える影響を検討する。加えて、細胞内タンパク質のペントシジン修飾についても質量分析等により修飾タンパク質を同定し、ペントシジン化を介した標的タンパク質の構造変化、機能変容についての検討をより推進する。
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