研究課題
当該年度、慢性期統合失調症と指尖AGEs(F-AGEs)が関連することを明らかにしてきたが、初発精神病(FEP)との関連は未検証であった。FEP群と健常者群を対象としてF-AGEs値を比較した結果、FEP群で有意な上昇を認め、AGEsが発症直後の病態にも関与することを見出した。また、思春期児童でのF-AGEと精神病様症状(PLE)との縦断的関連では、F-AGE値が統合失調症発症のリスクであるPLE持続を有意に予測することを明らかにした(NPJ Schizophr. 2021)。F-AGEsは非侵襲的、簡便に測定可能な事から、医療現場のみならず学校や地域においてもリスク状態の早期の同定に有用な指標である。AGEsは、発症前から慢性期の時系列において関連することから、糖化制御を標的とした予防、治療的介入による寛解達成、再発予防への貢献、先制介入の創成が期待される成果を得た。また、マウス個体を活用した検討においては、胎児期におけるAGEs曝露モデル、統合失調症と関連する新規の遺伝子改変動物によるAGEs蓄積モデルを構築し、幾つかの行動が変容する所見を見出した。加えて、in vitroでのAGEs合成系を独自に構築し、天然化合物ライブラリーから合成阻害活性を有する化合物の幾つかを同定することに成功した。このin vitro系をAGEs合成阻害能評価のツールとして利活用することが可能となり、抗AGEs化合物など新たなターゲット分子探索を加速度的に推進できる基盤を構築した。さらに、マウス前頭前皮質由来初代神経細胞を活用し、経時的に細胞内にAGEsが蓄積する新たな細胞モデル構築にも成功した。同細胞モデルの利活用は、細胞内遺伝子発現、タンパク質AGEs修飾、代謝産物動態、細胞形態変化など、AGEsが介在する分子機序解明のツールとなることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
ライフステージにおける糖化ストレスの脆弱性が将来の精神疾患リスクを高める、という着想に基づき、糖化ストレスの高値が将来の精神病症状の持続を予測することも明らかにしてきた。この所見は、糖化制御を標的とした有効な介入点を示す成果である。現在までの研究成果はおおむね順調に進んでいるが、次年度は、AGEs蓄積の動物モデル・細胞モデルをより利活用した解析を実施し、AGEsを介した作用機序を明らかにする計画である。また、AGEs修飾によるタンパク質の機能変容の機序の一端を明らかにする計画である。
次年度以降も、各研究機関と連携を強化し、ペントシジンをはじめとする網羅的なAGEs解析、指尖AGEs、 ターゲット代謝産物を軸に、糖化ストレス軌跡を明らかとする。バイオマーカーによる被験者の層別化とその分子基盤の探求を継続する。最終年度に向け、(1)糖化制御とライフステージにおける健康アウトカムとの関連を解析する。(2)思春期疫学コホートと疾患バイオサンプルデータの相互検証から、糖化ストレスの標準軌跡から逸脱を引き起こす遺伝×環境因を分析する。先制介入点の同定を目指す。(3)ヒト剖検脳を活用したAGEs蓄積の脳病理、(4)AGEs蓄積モデル動物の行動薬理学的解析、(5)AGEs蓄積細胞モデルを利用した候補予防薬・治療薬スクリーングの実施とその機序解明を推進する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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