研究課題/領域番号 |
20H03612
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮本 直樹 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00552879)
|
研究分担者 |
田中 創大 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 物理工学部, 研究員 (00826092)
高尾 聖心 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10614216)
富岡 智 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40237110)
松浦 妙子 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90590266)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 機械学習 / ボリュームイメージング / マーカレス / リアルタイム / 医学物理 |
研究実績の概要 |
本研究では、放射線治療中に得られる2方向X線透視画像を利用し、体内マーカを利用することなく(マーカーレス)、リアルタイムに体内の3次元構造を取得するボリュームイメージング技術を開発することを目的とする。この提案技術の実現により、体内にマーカーを留置するという侵襲性のあるプロセスを無くすことができ、加えて、ボリュームイメージを得ることによる高精度な呼吸性移動対策をFLASH などの超高線量率照射を含むあらゆる照射において実施可能となる。本研究では、研究期間内に各要素技術の開発を進め、十分な質と量のデータにより精度検証を実施し、ボリュームイメージングを利用した治療ビーム照射制御の臨床的有用性を明らかにする。 2021年度は、昨年度のデジタルファントムによる画像合成精度評価に続き、実際の患者の4DCTデータによる評価を進めた。同一患者で異なる日に撮影された4DCTデータを利用し、1つの4DCTデータを変形モデリング用、残りの4DCTデータを検証に用い、モデリングの課程で得られた固有体内変形ベクトルの線形結合にもとづくボリュームイメージングにより、検証データをどこまで再現できるか評価した。合成画像の画素値と構造の再現性を評価した結果、先行研究(主にデジタルファントムでの評価)と同等の性能が得られた。したがって、放射線治療中に正確な固有値を評価することにより、標的の位置や体内構造の評価に応用できるボリュームイメージをリアルタイムで合成できると考えられ、提案手法の臨床的な実行可能性を示すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に基本アルゴリズムを構築し、今年度は実際の患者データを用いた検証により、臨床的な実行可能性を示すことができた。基本的に申請時の実施計画に沿った研究開発を進めており、ほぼ想定通りの結果が得られていることから、研究開発はおおむね順調に進んでいると自己評価した。詳細を以下に示す。 開発したアルゴリズムでは、変形画像レジストレーション(DIR: Deformable Image Registration)および主成分分析(PCA: Principal Component Analysis)を利用して体内変形をモデル化する。まず、治療計画時に得られる4DCT(例:呼吸1周期を10分割にしたCTデータセット)に対してDIRを適用し、呼吸により体内で生じる変形を求め、PCAにより固有変形ベクトルを求める。ここで、体内で呼吸により生じる任意の変形は、これら固有変形ベクトルに適当な重みをかけた変形の和として表すことができると考える。放射線治療中は、X線透視画像から最適な重みを推定することで体内変形を評価し、基準データを変形させることでボリュームイメージを合成することができる。 初年度は最急降下法により固有値を評価する方法を検討し、デジタルファントムによる評価において十分な精度が得られたが、計算に数秒程度の時間を要しリアルタイム性に課題があった。そこで今年度は、X線透視画像を入力、固有値を出力とするConvolutional Neural Network (CNN)による方法を新たに検討した。複数の患者4DCTデータを利用し、1つの4DCTデータをCNNの学習に利用し、残りの4DCTデータを検証に利用して、ボリュームイメージの合成精度を評価した結果、先行研究(主にデジタルファントムでの評価)と同等の性能が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点までに、X線透視画像を用いたボリュームイメージング技術の基本アルゴリズムを開発済みであり、患者データを用いた評価により、放射線治療への応用に十分な画像合成精度を確認できた。また、Convolutional Neural Network (CNN)の利用により、リアルタイム(10回/秒程度)での画像合成が可能であることを実証した。最終年度となる次年度は、主成分分析(PCA: Principal Component Analysis)を利用した学習用データの拡張方法、標的の位置、X線透視の角度など、臨床を想定した様々な条件において画像合成精度を評価し、幅広い臨床ケースにおける臨床的実行可能性を確認する。また、ボリュームイメージを利用した治療ビームのリアルタイム制御方法(ビームのON/OFF)について検討し、シミュレーションによる線量評価を実施する。治療ビームの制御方法としては、治療計画時のCT画像とリアルタイムで合成したCT画像との比較から、治療用の粒子線が体内で停止する位置の変化を評価し、その変化が許容値以内である場合は治療ビームを照射、許容値を超える場合は大きな線量誤差が生じる可能性があるため、治療ビームを停止する、という方法をベースにし、線量評価に基づいて妥当な許容値などを決定する。最終的に、提案手法を応用することで、現時点で最も高精度と考えられる体内マーカを利用した治療方法と比較して、標的に対する線量指標(例えば最小線量など)を向上させることを目標とする。
|