研究課題/領域番号 |
20H03619
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
上原 知也 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (10323403)
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研究分担者 |
高橋 和弘 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (20370257)
田中 浩士 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (40334544)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核医学イメージング / 核医学治療 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、放射性核種標識低分子ペプチド等の生体内投与時に観察される、腎臓への非特異的集積を低減させる方法として、プレターゲティング法を利用した新たな戦略の有用性を評価することを目的とする。本年度は前立腺がんに高発現する前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的とし、トランスシクロオクテン(TCO)とテトランジン(Tz)によるクリック反応を利用したPSMA検出薬剤について検討した。初めに投与する薬剤として、PSMAに結合することが知られている非対称ウレア構造とPSMAへの親和性向上を目的としたナフチルアラニンを結合した薬剤にTCOを結合した薬剤を設計した。本化合物の動態を評価するために、TCOの代わりにヨウ素安息香酸を結合した薬剤を作製し、その体内動態を評価した。その結果、肝臓および腸管への高い集積を示し、従来のPSMA誘導体とは異なる体内動態を示した。そこで、ナフチルアラニンとヨウ素安息香酸の間にD-グルタミン酸を2分子導入した薬剤を新たに設計、合成し、その体内動態を評価した。その結果、腎排泄へと変わり、従来報告されているPSMA誘導体と同様の体内動態を示した。次いで、2番目に投与する放射性核種標識薬剤について検討した。Tzに放射性ガリウムに適した配位子であるNOTAを直接結合した薬剤を設計・作製した。本化合物の体内動態を評価したところ、こちらも肝臓および腸管への集積が観察された。そこで、本化合物においても、2分子のグルタミン酸を導入した薬剤を新たに設計し、現在合成しているところである。今後、本薬剤の体内動態を評価していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新たなプレターゲッティング法の利用を目的に、薬剤の合成および評価を行った。プレターゲティングに使用する第一番目の薬剤として、トランスシクロオクテン(TCO)とPSMAに結合することが知られている非対称ウレア構造と親和性向上を目的としたナフチルアラニンを結合した薬剤を設計したが、本薬剤の類似物質であるTCOの代わりにヨウ素安息香酸を結合した薬剤の体内動態が予想していたよりも、肝臓および腸管への集積が高い結果を示した。本問題を解決すべく、ナフチルアラニンとヨウ素安息香酸の間にD-グルタミン酸を2分子導入した薬剤を新たに設計、合成し、その体内動態の改善を図り、その結果、より良い化合物を得ることができた。次いで、2番目に投与する放射性核種標識薬剤について検討したが、直接Tzに放射性ガリウムに適した配位子であるNOTAを結合した薬剤では、肝臓および腸管への集積が観察された。そこで新たに、TzとNOTAの間に2分子のグルタミン酸を導入した薬剤の設計し、現在合成を行っている。このように当初の化合物では問題があったが、薬剤の再設計により、目的とする動態を示す薬剤ができており、概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの検討より、1番目に投与する薬剤の候補化合物は作製できている。また、2番目に投与する薬剤の候補化合物の設計はできている。本年度は、2番めに投与する薬剤の合成を完了し、次いで体内動態を評価する。速やかに腎臓から排泄される理想的な動態を確認できれば、本薬剤を候補化合物として選定する。一方、さらなる改良が必要と考えられれば、その体内動態の評価から適切な薬剤設計を行い、速やかに腎臓から排泄される薬剤の作製を行う。次いで、プレターゲティングが可能かをインビトロおよびインビボで評価する。インビトロでの評価では、TCO化合物とTz化合物をインビトロで混和し、結合可能かを評価する。また、インビボでは、担がんマウスにTCO化合物を投与し、次いで、Tz化合物を投与し、腫瘍集積性、および腎臓への集積性を評価する。インビボの実験の場合、TCO化合物の物質量は従来の核医学イメージングに使用する物質量に比べ、非常に多くなる。そのため、TCO結合化合物を大量に合成する必要があり、合成法の改良が必要となると考えられる。そこで、TCOの合成から、PSMA結合化合物との結合まで、効率よく合成可能な方法の確立も目指す。このような検討から、プレターゲティング法と腎臓への非特異的放射活性の低減についてのインビボの効果についての知見を得ることを目標とする。
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